TOI-421

恒星TOI-421とその惑星系

TOI-421は、地球から見てうさぎ座の方向に位置する恒星です。約74.94パーセク、すなわち約244光年の距離にあります。この恒星は、太陽に多くの点で類似した特徴を持っています。

主星 TOI-421

TOI-421は、質量が太陽の約85パーセント、半径が太陽の約87パーセントという、太陽よりわずかに小さいサイズの恒星です。スペクトル分類では太陽と同じG型に分類され、表面温度は約5325ケルビンと推定されています。年齢は約94億年と、太陽（約46億年）よりもかなり年老いた恒星と考えられています。地球からの見かけの明るさは約9.9等級で、天体望遠鏡を使えば観測可能な比較的明るい天体です。また、近くに伴星が存在する実視連星である可能性も指摘されています。

多様な名称

恒星TOI-421には、複数の天体カタログに基づく名称が存在します。「TOI」という接頭辞は「TESS Object of Interest」の略で、アメリカ航空宇宙局（NASA）のトランジット系外惑星探索衛星TESSによる観測で、周囲に惑星が存在する可能性が示された恒星に与えられる名称です。TOIに登録された恒星は、詳細なフォローアップ観測の優先的な対象となります。TESSの観測対象となる恒星のカタログである「TESS Input Catalog」（TIC）における名称は「TIC 94986319」です。この他にも、「BD-14 1137」「TYC 5344-01206-1」「2MASS J05272482-1416370」「Gaia DR2 2984582227215748864」など、様々なカタログ名で呼ばれています。

惑星系の発見

TOI-421の周囲に惑星が存在することが明らかになったのは2020年のことです。NASAのTESS衛星が、恒星の手前を惑星が通過する際に起こるわずかな明るさの低下（トランジット）を観測する手法を用いて、最初に公転周期が約16日の惑星候補を検出しました。この候補は一時的に「TOI-421.01」と名付けられました。その後、地上の望遠鏡などを用いたフォローアップ観測が実施されました。惑星の重力によって恒星がわずかに揺れる様子を観測するドップラー分光法（ラジアルベロシティ法とも呼ばれます）による観測で、さらに公転周期が約5日の別の信号が検出され、こちらもトランジットが確認されました。この2番目の惑星候補は「TOI-421.02」と指定されました。これらのフォローアップ観測を経て、二つの惑星の存在が確定し、公転周期が短い方から順に「TOI-421 b」（TOI-421.02）と「TOI-421 c」（TOI-421.01）と正式に命名されました。これらの惑星の発見および確認に関する研究論文は、2020年4月21日にプレプリントサーバーarXivで公開されました。

惑星 TOI-421 bとcの詳細

発見された二つの惑星は、どちらも太陽系外では比較的よく見られるタイプの天体です。内側の軌道を公転するTOI-421 bは、地球の約7.2倍の質量と約2.7倍の半径を持つ「ミニ・ネプチューン」と呼ばれる海王星型惑星です。一方、外側の軌道を公転するTOI-421 cは、地球の約16.4倍の質量と約5.1倍の半径を持ち、こちらも海王星型惑星に分類されます。

これらの質量と半径のデータから、TOI-421 bとcの内部構造や大気組成が推定されています。両惑星とも、厚い水素とヘリウムの大気を持っている可能性が高いと考えられています。主星に近い軌道を回っているため、恒星からの強い放射を受けて大気が宇宙空間に失われる「大気散逸」を起こしている可能性も指摘されています。このような特徴を持つTOI-421 bとcは、惑星の大気の性質を詳しく調べる「大気特性評価」にとって特に適した観測ターゲットであると考えられています。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による大気研究

TOI-421 bとcの重要性は、将来的な観測計画にも反映されています。2021年11月17日には、運用開始後のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡（JWST）による初年度の観測プログラム（Cycle 1 General Observers program）の一部として、TOI-421 bと別のミニ・ネプチューンであるGJ 1214 bの大気を分析する計画が発表されました。JWSTは、非常に高い感度で天体を観測できる性能を持っています。

特にTOI-421 bの大気分析のため、JWSTは惑星が主星の手前を通過するトランジット現象を2回観測する予定です。1回目の観測では、近赤外線撮像分光器およびスリットレス分光器（NIRISS）を使用し、2回目の観測では、近赤外線分光器（NIRSpec）を用いて、惑星の大気を透過した恒星の光のスペクトル（透過スペクトル）を取得します。この透過スペクトルには、惑星大気に含まれる様々な分子が特定の波長の光を吸収した痕跡が記録されています。

取得されたスペクトルを詳細に分析することで、TOI-421 bの大気の詳細が明らかになると期待されています。もし大気が晴れていれば、水やメタン、二酸化炭素といった主要な分子の存在量や組成比を正確に測定することが可能となります。また、大気中に雲やヘイズ（エアロゾル）が存在している場合は、その性質や構成成分を調査することもできます。このようなJWSTによる最先端の観測を通じて、ミニ・ネプチューン型惑星の大気がどのように形成され、どのような化学組成を持ち、主星からの影響を受けてどのように進化していくのか、といった重要な課題に対する理解が大きく進むと期待されています。

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