TOI-849 b

TOI-849 b

TOI-849 bは、地球から約741光年離れたろ座の方向にある恒星TOI-849の周囲を回る太陽系外惑星です。この惑星は、2020年にウォーリック大学の研究者であるデイヴィッド・アームストロング氏らが、トランジット法を用いてTESS（トランジット系外惑星探索衛星）が観測したデータを分析することによって発見されました。その発見を報告する論文は、2020年3月23日に一般に公表されました。TOI-849 bは、発見当時、地球型惑星としては最も大きな質量を持つ惑星として注目を集めました。

特異な性質

TOI-849 bは、「ネプチュニアン砂漠」と呼ばれる、海王星サイズの惑星が珍しい領域に存在しており、母恒星から非常に近い軌道を周回しています。その公転周期は約0.766日と非常に短く、計算される表面温度は摂氏1500度を超える約1800ケルビンにも達します。

発見後のフォローアップ観測では、高精度視線速度系外惑星探査装置（HARPS）を用いたドップラー分光法によって、この惑星のさらに詳細な性質が明らかになりました。その結果、TOI-849 bは地球の約39倍という突出した質量を持つことが判明しました。これは太陽系最大の惑星である木星の約8分の1、土星の約半分に相当する質量です。

さらに驚くべきは、その質量にもかかわらず、TOI-849 bの平均密度が約5.2g/cm³と、地球の密度（約5.5g/cm³）と非常に近い値であることです。海王星程度の大きさ（地球半径の約3.4倍）を持つ惑星としては、これまで発見された中で最も高い密度を誇ります。通常、これほど大きな質量を持つ惑星は、水素やヘリウムといった軽いガスを大量にまとって密度が低くなる木星型惑星に分類されます。しかし、TOI-849 bが示す高い密度と大きな質量という組み合わせは極めて異例であり、惑星形成論に新たな課題を突きつけました。

クトニア惑星の有力候補

TOI-849 bの最大の特徴は、その質量に対して大気の主要成分である水素やヘリウムのガス成分が非常に少ないことです。観測によると、これらの軽いガスの質量は惑星全体の質量のわずか4%以下に過ぎません。これは、本来あるべき濃密なガスエンベロープ（外層）をほとんど持っていないことを示唆しています。

この特異な状態から、TOI-849 bは、かつては大量のガスを持つ木星型惑星だったものが、何らかの理由でその外層ガスを失い、中心部の核が剥き出しになった「クトニア惑星」である可能性が非常に高いと考えられています。クトニア惑星とは、ギリシャ語で「地下の」「地球の」を意味する言葉に由来し、その名の通り、惑星の内部構造、特に核が露わになった状態を指します。

なぜTOI-849 bはこのような状態になったのでしょうか。考えられるシナリオは複数あります。一つは、母恒星からの強い潮汐力や、他の天体との巨大衝突といった激しい出来事によって、元々持っていた大量のガスが剥ぎ取られてしまったという可能性です。もう一つは、惑星が形成される際に、原始惑星系円盤に十分なガスが存在しなかった、あるいは惑星の形成が遅れたために、ガスを効率的に捕獲できなかったという可能性です。原始惑星系円盤に隙間があったり、惑星形成期の後期に誕生したりした場合、惑星を取り巻くガスが少なくなることがあります。

ただし、比較的穏やかな「大気蒸発」によるガス損失だけでは、TOI-849 bのように惑星質量の大部分を占めるほどのガスを失うことは難しいと考えられており、上記のより劇的なシナリオが有力視されています。

TOI-849 bの発見は、これまでの常識を覆す惑星が存在することを示し、惑星の形成や進化の過程を理解する上で極めて重要な事例となっています。その特異な性質の解明は、今後の系外惑星研究の重要なテーマの一つとなるでしょう。

関連事項

太陽系外惑星
CoRoT-7b
* 2020年に発見された太陽系外惑星の一覧

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