Tu-22M (航空機)

Tu-22M（バックファイア）

Tu-22M（ロシア語: Ту-22М）は、冷戦時代のソビエト連邦において、ツポレフ設計局によって開発・製造された超音速・可変翼の中距離爆撃機です。ソ連国内では「ミサイル爆撃機」に分類され、長大な航続距離と多様な兵装搭載能力を特徴とします。現在もロシア連邦空軍で運用されている主力爆撃機の一つです。

「M」はロシア語の「発展型」を意味し、先行機であるTu-22の改良型として位置づけられていますが、実際には大幅な再設計が施されており、西側諸国からは当初Tu-26という全く別の名称で推測されていました。北大西洋条約機構（NATO）は、この機体に「バックファイア (Backfire)」というコードネームを与えました。

開発背景と経緯

先行機のTu-22は、高価でありながらも航続距離や離陸性能においてTu-16を下回るなど、必ずしも成功したとは言えませんでした。この課題を克服するため、Tu-22の運用開始と同時期に、ツポレフ設計局は後継機の研究開発に着手します。当時、MiG-23やSu-17といった戦闘機・攻撃機に採用され始めていた可変翼技術は、短い離陸滑走距離、優れた航続効率、高速性能、低空飛行能力など、爆撃機にも魅力的なメリットをもたらすと期待されていました。ツポレフは、失敗に終わったTu-98爆撃機の設計要素も取り入れつつ、可変翼を搭載した試作機「航空機145」(サモリョート145)を開発します。この機体は原型であるTu-22から大きく変化していましたが、当時のソ連におけるミサイル万能論の影響もあり、新型機としての開発を公に進めることが難しい状況でした。そこでツポレフは、あくまで「航空機145」をTu-22の発展型と位置づけ、「Tu-22M」の名称で計画を進めました。

1969年8月には、先行試作機Tu-22M0が初飛行。その後、前生産型Tu-22M1（バックファイアA）が開発試験で良好な性能を示し、本格的な量産が決定されます。最初の量産型であるTu-22M2（バックファイアB）は1972年に登場。さらに改良型のTu-22M3（バックファイアC）が1977年に初飛行し、シリーズの主力となりました。

機体の構造と性能

Tu-22Mは、Tu-22からの大幅な改良が施されています。特に大きな変更点は、エンジン配置と主翼構造です。エンジンは垂直尾翼脇から胴体後部に2基並列にまとめられ、大型の空気取り入れ口が特徴です。主翼は低翼配置の可変翼で、外翼部は20度、30度、65度の3段階に角度を変更できます。これにより、離着陸時の安定性向上と高速飛行時の効率化を両立しています。主翼や尾翼には、効果的な操縦・制御のためのスラット、フラップ、スポイラーなどが多数装備されています。

機体中央部には大型の爆弾倉を持ち、核爆弾や各種通常爆弾を搭載できます。例えば、FAB-3000爆弾なら3発、FAB-1500なら8発の搭載が可能です。さらに、胴体下面や主翼下にも兵装を搭載でき、FAB-500爆弾なら合計42発、FAB-250なら合計69発という多数の搭載能力を持ちます。対地・対艦ミサイルも主要な兵装であり、爆弾倉下にKh-22/Kh-32、主翼下にKh-22やKh-15、Kh-31/Kh-35などを搭載できます。最新型では極超音速ミサイルKh-47M2「キンジャール」の運用能力も付与されています。

機首には各種レーダーや光学照準器が装備され、精密な航法と攻撃を支援します。自衛用には、胴体各部にレーダー警戒装置やミサイル接近警報装置のセンサーが配置され、チャフ・フレア・ディスペンサーを備えています。尾部には遠隔操作式のGSh-23 23mm連装機関砲1基と射撃管制レーダーが装備されています。

エンジンは、M2型ではNK-22、M3型以降ではより強力なNK-25ターボファンエンジンを2基搭載し、M3型は最大速度マッハ2.05を発揮します。乗員は操縦士、副操縦士、航法士、兵装システム士官の4名で、並列に前後に座ります。各員は射出座席を備え、緊急時の脱出に対応しています。

派生型

Tu-22Mは複数の派生型が製造されました。

Tu-22M0 / M1 (バックファイアA): 初期の試作・前生産型。合計18機製造。
Tu-22M2 (バックファイアB): 最初の本格量産型。胴体や主翼が再設計され、エンジンをNK-22に変更。一部はNK-23に換装されM2Yeと呼ばれました。しかし、信頼性や居住性に問題を抱え、「ドヴォーイカ（落第点）」と皮肉めいたニックネームで呼ばれることもありました。
Tu-22M3 (バックファイアC): M2からの大幅な改良型。より強力なNK-25エンジンを搭載し、速度性能が向上。空気取り入れ口の形状変更、アビオニクスの更新が行われ、Kh-15ミサイルの運用能力も付与されました。尾部機関砲は1門に変更。乗員からは「トロイカ」と呼ばれ、信頼性・性能が向上しました。偵察・ELINT能力を持つTu-22MRなどの派生型も少数存在します。
Tu-22M3M: M3の近代化改修型。アビオニクスが大幅に更新され、グラスコクピット化。最新の航法・通信・照準システムを備え、メンテナンス性も向上しています。外観上は尾部砲塔の廃止などが特徴です。

シリーズ合計で約497機が製造されたとされています。

運用と実戦経験

冷戦期、Tu-22Mはソ連空軍の戦略爆撃任務や、海軍航空隊による長距離対艦攻撃任務に投入されました。特にその長大な航続距離は西側諸国に懸念を抱かせましたが、第二次戦略兵器制限交渉（SALT II）で空中給油能力が制限されたことにより、アメリカ本土への直接往復攻撃能力は失われました。

Tu-22Mは、アフガニスタン紛争で初めて実戦投入され、大量の通常爆弾による絨毯爆撃を行いました。ソ連崩壊後は、ロシア連邦が多くの機体を引き継ぎ、現在もTu-95とともに爆撃機部隊の中核を担っています。ウクライナもソ連崩壊時に保有しましたが、多くが破棄されました。ロシア連邦は第一次チェチェン紛争や南オセチア紛争、シリア内戦、そして2022年のウクライナ侵攻にもTu-22Mを投入しており、特にウクライナ侵攻ではKh-22/Kh-32ミサイルの発射プラットフォームとして使用されています。運用中に墜落事故や射出座席の誤作動事故も発生しています。

主要諸元 (Tu-22M3)

乗員: 4名
全長: 39.6 m
翼長: 展開時 34.28 m / 後退時 23.3 m
全高: 11.05 m
自重: 54,000 kg
全備重量: 124,000 kg
最大離陸重量: 130,000 kg
エンジン: クズネツォフ NK-25 ターボファンエンジン 2基
出力: アフターバーナー使用時 各245 kN
最大速度: マッハ 2.05 (2,160 km/h)
戦闘行動半径: 1,500 - 2,407 km
輸送行動半径: 11,993 km
実用上昇限度: 13,300 m
最大搭載量: 12,000 kg (通常)
武装: GSh-23 23mm機関砲 1基 (尾部)、各種爆弾・ミサイル (Kh-47M2, Kh-22/32, Kh-15, Kh-31/35 など)

登場作品

Tu-22Mは、その特徴的な形状と役割から、冷戦期を描いた作品を中心に多くのフィクションに登場しています。

映画: 『ウォーゲーム』、『トータル・フィアーズ』
アニメ・漫画: 『FUTURE WAR 198X年』、『イーグルドライバー』、『パタリロ！』
小説: 『影の爆撃機』、『レッド・ストーム作戦発動』
* ゲーム: 『Modern Warships』、『大戦略シリーズ』、『エリア88』

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