ZELDA (バンド)

ZELDA

ZELDA（ゼルダ）は、1980年代から1990年代にかけて日本の音楽シーンで異彩を放ったロックバンドです。そのサウンドは、パンクやニューウェイヴを基盤としつつ、ポップス、ファンク、ブラックミュージック、さらにはルーツ・ミュージックといった多様なジャンルを横断し、常に変化を恐れない姿勢を示しました。女性のみで構成されたバンドとしては、その活動期間の長さにおいてギネス世界記録にも認定されるほどであり、後のガールズバンドシーンに大きな影響を与えたパイオニアとして位置づけられています。

バンド名は、アメリカの小説家F・スコット・フィッツジェラルドの妻であるゼルダ・フィッツジェラルドに由来するとされています。1979年に結成され、1996年に解散するまで、約17年間にわたり独自の音楽世界を追求しました。

バンドの歩み

1979年、ベーシストの小嶋さちほが中心となり、ZELDAは産声を上げました。新宿ロフトでの初ライブを皮切りに活動を開始。当初は5人編成でしたが、すぐにメンバーチェンジを経て核となるラインナップへと向かいます。1980年3月には、小嶋が発行していたミニコミ誌『チェンジ2000』のメンバー募集を通じて、ボーカルの高橋佐代子が加入。二人の出会いは、ストラングラーズの来日公演というエピソードも残されています。同年12月にはインディーズから1stシングル『ASH-LAH』を発表し、翌年にはソノシート『ZELDA』をリリースするなど、精力的に活動を展開しました。

メジャーフィールドに進出したのは1982年8月。日本フォノグラムより、1stアルバム『ZELDA』とシングル『ミラージュ・ラヴァー』を同時に発表しました。この頃のメンバーは小嶋、高橋、ギターの鈴木洋子、ドラムの野沢久仁子の4人。LIZARDのモモヨがプロデュースを手掛けたこの作品は、当時の東京におけるパンク・ロックムーブメント「東京ロッカーズ」の一環としても捉えられました。また、同時期に興隆したガールズバンドブームの中、ZELDAはその先駆者として注目され、水玉消防団などと共に音楽誌やサブカルチャー誌で頻繁に取り上げられるようになります。

1983年には、ギターが鈴木洋子から石原富紀江に、ドラムが野沢久仁子から小澤亜子へと交代。このメンバーチェンジは、バンドサウンドに新たな変化をもたらします。石原富紀江の「ヘタウマ」と評された個性的なギタープレイ、特にハーモナイザーを用いたエキゾチックな音色やインド音階を取り入れたソロは革新的でした（ライブアルバム『Dancing Days』でその片鱗を聴くことができます）。一方、小澤亜子はロックドラマーとしては珍しく16ビートを基調とした端正かつタイトなドラミングでバンドを支え、シンセサイザー操作にも長けていました。

体制を刷新したZELDAは、1983年にムーンライダーズの白井良明をプロデューサーに迎えて2ndアルバム『CARNAVAL』をリリース。ムーンライダーズ周辺のミュージシャンも多数参加したこの作品により、ニューウェイヴバンドとしての確固たる地位を確立しました。

1984年には、小嶋さちほ、高橋佐代子の二人が別ユニット「招き猫カゲキ団」としても活動を開始。テレグラフ・レコードからアルバム『第一歌曲集』を発表します。こちらは昭和レトロや童謡・唱歌の要素を取り入れたアコースティックなスタイルで、当時のZELDAの緊迫感とは対照的な脱力系のサウンドを展開しました。

1985年にはレコード会社をCBS・ソニー（現：ソニー・ミュージックレコーズ）に移籍し、引き続き白井良明プロデュースのもと3rdアルバム『空色帽子の日』を発表。1986年には映画『ビリィ★ザ★キッドの新しい夜明け』にメンバー全員が出演し、主題歌・挿入歌も担当するなど、多方面で活動しました。1987年には元四人囃子の佐久間正英をプロデューサーに迎えた4thアルバム『C-ROCK WORK』をリリースしています。

1988年頃から、小嶋さちほがファンクやブラックミュージックに深く傾倒するようになります。もともと16ビートを得意としたドラムの小澤亜子はスムーズに対応しましたが、8ビート主体の石原富紀江は適応に苦労する様子も見られました。こうした音楽性の変化は同年の5thアルバム『SHOUT SISTER SHOUT』、そして翌1989年の6thアルバム『D.R.O.P.』で顕著に現れ、ファンク・ブラックミュージック色が強まります。

1990年、ギターの石原富紀江が脱退。バンドは約1年間の活動休止期間に入り、この間に所属レコード会社もavex系のcutting edgeへと移籍しました。1991年にはギタリストとして本村直美が加入。世界の多様な音楽のエッセンスをギターで表現できる本村の参加により、ZELDAのサウンドはワールドミュージックを基調とした、より伸びやかで広がりのあるものへと変化しました。

1992年にはジャマイカで録音された7thアルバム『LOVE LIVE LIFE』をリリース。続く1993年には、サンディー&ザ・サンセッツの井上ケン一をプロデュースに、スライ・ダンバー、イエローマン、オーガスタス・パブロといった豪華なゲストを迎えて、再びジャマイカで8thアルバム『FULLMOON PUJAH』を制作、発表しました。

1996年には、高橋佐代子がSAYOKO名義でソロアルバムをリリースする一方、ZELDAとしては最後のオリジナルアルバムとなる9thアルバム『虹色のあわ』を発表。小嶋さちほの沖縄での生活などが影響を与えたとされるこの作品の後、同年にバンドはその歴史に終止符を打つことを発表し、解散しました。

主なメンバー

小嶋さちほ: ベース、リーダー。「チホ」の愛称で親しまれたバンドの核。BO GUMBOSのどんと（久富隆司）と結婚し、子供たちもミュージシャンとして活躍しています。
高橋佐代子: ボーカル、作詞。「サヨコ」の愛称。招き猫カゲキ団では「高橋小夜子」名義も使用。SAYOKO名義でのソロ活動を経て、現在はサヨコオトナラで活動中です。娘のアリワもミュージシャンです。
石原富紀江: ギター。「フキエ」。1983年から1990年まで参加し、個性的なギタープレイでサウンドを特徴づけました。
小澤亜子: ドラムス。「アコ」。1983年から解散までドラムを担当。タイトかつ手数の多いドラミングとシーケンサーワークで貢献しました。
本村直美: ギター。1991年から解散まで参加。ワールドミュージック期におけるサウンドの要となりました。現在はソロギタリストとしても活動しています。

その他、初期メンバーとして鈴木洋子（ギター）、野沢久仁子（ドラムス）、ケイ（ボーカル）、トヨ（シンセサイザー）が参加しました。

主な作品

シングル

ASH-LAH (1980)
ミラージュ・ラヴァー (1982)
黄金の時間 (1986) ※映画主題歌
Electric Sweetie (1987)
MY LITTLE CRYING (1992)
LOVE LIVE LIFE (1993)
冷たくしないで (1993)
あなただけがすべてじゃない (1995)
かなしくて (1996)
金木犀 (1996)

オリジナルアルバム

ZELDA (1982)
CARNAVAL (1983)
空色帽子の日 (1985)
C-ROCK WORK (1987)
SHOUT SISTER SHOUT (1988)
D.R.O.P. (1989)
LOVE LIVE LIFE (1992)
FULLMOON PUJAH (1993)
虹色のあわ (1996)

ライブアルバム

Dancing Days (1988)

ベスト・初期音源集等

GOLDEN☆BEST/ZELDA-time spiral (2003)
ZELDA 1985-1990 (2014) ※ボックスセット
はじまりのゼルダ 最初期音源集1980-1982 (2019)

ZELDAの音楽は、その時代ごとに変化を遂げながらも、常に革新性と独自性を失うことはありませんでした。女性ロックバンドの道を切り拓いたパイオニアとして、その功績は今なお多くのリスナーや後続のアーティストに記憶されています。

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