シノブ

シノブ

シノブ（Davallia mariesii Moore ex Baker）は、シダ植物門シノブ科に属する着生シダです。日本では観賞用として採取・栽培されることがあります。

特徴

シノブは、樹木の樹皮上に生育する着生植物です。葉は3～4回羽状複葉のように深く裂け、全体としては卵形をしています。小葉は先端がやや細い楕円形で、革のような質感で少し厚みがあります。小葉の裏面には、小葉全体より少し小さい胞子のう群があり、コップのような形をした包膜に包まれています。葉は落葉性ですが、南西諸島に自生するものは常緑です。

茎は太くて長く伸び、表面は褐色の鱗片で覆われています。茎は根で樹皮に張り付き、枝分かれしながら樹皮の上を這うように成長します。よく育つと、木の幹一面に広がって葉をつける姿を見ることができます。

分布と利用

シノブは、日本列島では北海道の一部から南西諸島にかけて、国外では朝鮮半島南部、中国、台湾に分布しています。山地の森林内の樹木などに着生していますが、古くから栽培されてきました。特に、棕櫚皮などを丸く固めたものにシノブを這わせ、紐で吊り下げて鑑賞する「シノブ玉（つりしのぶまたは釣りしのぶ）」は、夏の風物詩として親しまれています。シノブ玉は、通常、苔と組み合わせて作られ、場合によってはセッコクなどの植物も添えられます。

近年では、葉がより厚い台湾産のトキワシノブ（Humata tyermanii）も栽培されています。トキワシノブは常緑性です。

文化

シノブの名前は古くから和歌にも詠まれており、観賞の対象として長く愛されてきました。和名の由来は「忍」であり、「堪え忍ぶ」性質に由来すると言われています。

近縁種

国内の近縁種には、キクシノブ（Pachypleuria repens (L.f.)）があります。キクシノブは葉が厚く固く、2回羽状複葉のように浅く裂けるのが特徴です。紀伊半島から九州にかけて分布する希少種で、葉が菊の葉に似ていることからこの名前が付けられました。また、琉球列島にはシマキクシノブ（P. vestita (Bl.)）が生息しており、こちらは葉がさらに細かく裂けていることで区別できます。

シダの古名としてのシノブ

シノブは、シダの古名の一つでもあり、この名前を持つシダは数多く存在します。代表的なものとして、ノキシノブ、タチシノブ、ホラシノブなどが挙げられます。また、カニクサにはツルシノブという別名があります。

参考資料

岩槻邦男編『日本の野生植物 シダ』（1992年、平凡社）
光田重幸『しだの図鑑』（1986年、保育社）

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