アグニ

アグニ：インド神話の火神

アグニ（梵: अग्नि [agni]）は、インド神話に登場する火神です。その姿は、赤色の体に炎の衣を纏い、二面二臂で七枚の舌を持つと描写されることが多く、神話によって様々な誕生譚を持ちます。ディヤウスとプリティヴィーの息子、ブラフマーの創造した蓮華から誕生、太陽または石から生まれたなど、多様な起源が語られています。

神話と役割

アグニは、アーリア人の拝火信仰を起源とする古い神であり、イラン[[神話]]のアータルと共通の起源を持つと考えられています。火のあらゆる属性の神格化であり、特に儀式における祭火として重要な役割を果たしました。供物は祭火たるアグニに投じられて煙となり天に届けられ、神々はアグニによって祭場へ召喚されます。アグニは地上の人間と天上の神との仲介者として、『リグ・[[ヴェーダ]]』において最初に名前が呼ばれ、インドラに次いで多くの讃歌が捧げられるなど、極めて重視されていました。

アグニは天上にあっては太陽、中空にあっては稲妻、地にあっては祭火として世界に遍在すると考えられていました。また、家の火や森の火、心中の怒りの炎、思想の火、霊感の火としても存在するとされ、人間や動物の体内においては食物の消化作用として存在し、栄養を全身に行き渡らせて健康をもたらし、子孫繁栄や財産の増大にも繋がると信じられていました。

後世におけるアグニ

後にはローカパーラ（lokapāla〈世界の守護神〉）八神の一柱として、東南の方角を守護するとされました。しかし、後期になるとその存在感は薄れ、叙情詩『ラーマーヤナ』においてラーヴァナによって尻尾に火を付けられたハヌマーンの治療をした程度に留まります。仏教においては火天（かてん）と呼ばれています。

言語学的側面

サンスクリット語の agní- は、インド・ヨーロッパ祖語 h₁ngʷ-ni- から派生したと考えられ、「火」そのものを意味します。これと同源の語には、ロシア語の огонь (ogon')〈火〉（＜ スラヴ祖語 ògņь）やラテン語の ignis〈火〉などがあります。ラテン語の ignis は、動詞 ignīre の過去分詞 ignītus を経て、英語の ignite〈火をつける〉の語源となりました。

アグニに関連する作品

芥川龍之介の短編小説『アグニの[[神]]』

関連項目

烏枢沙摩明王 - 炎で煩悩・不浄を焼き尽くす密教の明王の一人

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