アトラク＝ナクア

アトラク＝ナクア（Atlach-Nacha）は、創作されたクトゥルフ神話の世界観に登場する架空の存在であり、しばしば蜘蛛の神として言及されます。その名称には、アトラック＝ナチャ、アトラク＝ナチャ、アトラナートといった複数の異表記が存在します。

特徴と外見

アトラク＝ナクアは、おおよそ人間と同程度のサイズ感を持つ巨大な蜘蛛の姿をしています。全身には昆虫を思わせる複数の奇妙な器官が見受けられ、鮮やかな真紅の瞳を輝かせ、黒檀のような漆黒の体毛に覆われています。その脚はまるで丸太のように太く頑丈で、移動時には耳障りなほど甲高い鳴き声を発するとされています。

彼は自身の行う作業、とりわけ果てしなく続く巣を張る行為を妨げられることを何よりも嫌悪します。

起源と伝承

アトラク＝ナクアは、クトゥルフ神話の初期の貢献者の一人である作家、クラーク・アシュトン・スミスによって創造され、彼の作品『七つの呪い』で初めて登場しました。この物語によれば、彼は太古のハイパーボリア大陸に存在したヴーアミタドレス山脈の地下深くにある地底世界に生息しています。そこで彼は、底知れぬ広大な深淵に巨大な蜘蛛の巣を絶え間なく張り巡らせるという作業を繰り返し、永遠にも等しい時を過ごしていると描かれています。

彼がなぜこのような場所に巣を張るのか、その真の目的は誰にも理解されていませんが、ある伝承では、彼が張り巡らせるこの巨大な巣が完成した時こそが、この世界が終焉を迎える瞬間であるとも囁かれています。

リン・カーターなど、その後のクトゥルフ神話の拡張に貢献した作家たちの設定では、アトラク＝ナクアは太古の存在である旧支配者の一柱であると位置づけられています。彼らは、アトラク＝ナクアが同じく旧支配者であるツァトゥグァと共に、地の底に広がる異次元空間「ンカイ」に封じ込められたと設定しています。

さらに、フランシス・レイニーがクトゥルフ神話の用語をまとめた著書『小辞典』においては、アトラク＝ナクアは地球上に存在するすべてのクモ形類（蛛形綱）と関連性を持つ存在だと記されています。この書物では、彼がツァトゥグァと同じく遠く土星より飛来した存在であり、かつて地中海東岸に栄えた古代フェニキアにおいて秘密裏に信仰されていたこと、そして現在では北部シベリアの山脈地下で幽閉され、広大な淵に巣を張ることで永遠の時を過ごしていると記述されています。

眷属たち

アトラク＝ナクアには、彼に仕えたり、関連があるとされる生物たちが存在します。

チィトカア (Tch'tkaa): アトラク＝ナクアの従者とされる「灰色の織り手」たちの長。ヴーアミタドレスの地下世界で配下と共にアトラク＝ナクアに仕えています。
灰色の織り手（Gray Weavers）: アトラク＝ナクアに付き従う多足生物種族です。ツァトゥグァと共に惑星サイクラノーシュから渡来した際に従ったとされ、チィトカアを長とします。
レンの蜘蛛: ドリームランド、特にレン高原に棲む巨大な紫色の蜘蛛。H.P.ラヴクラフト作品に登場後、クトゥルフ神話に取り込まれアトラク＝ナクアの眷属とされました。

日本における受容

アトラク＝ナクアは、日本の創作作品においてもいくつかの特筆すべき形で登場しています。

漫画家の高橋葉介は、『夢幻紳士』怪奇編の短編『蜘蛛』において、巨大な蜘蛛の怪異の名称として用いています。また、1997年のアリスソフトのアダルトゲーム『アトラク＝ナクア』でもタイトルに採用されました。

このゲームの主人公である比良坂初音のデザインは、その後の日本のクトゥルフ関連作品におけるアトラク＝ナクアの擬人化表現に大きな影響を与えました。セーラー服を着用し、長い黒髪を持つ古風な美少女という比良坂初音のキャラクター像は、『ANGEL FOYSON』、『怪物王女』、『這いよれ! ニャル子さん』などで描かれる擬人化されたアトラク＝ナクアのオマージュ的なデザインとして広く見られます。

アトラク＝ナクア