キャリーバック

キャリーバック：アメリカ競馬史に名を刻んだ名馬

1958年生まれのサラブレッド競走馬、キャリーバック。その名は、税金対策の用語に由来する、どこか皮肉めいた響きを持つ。しかし、その競走馬としての輝かしい経歴は、決して皮肉なものではなかった。本稿では、ケンタッキーダービー制覇という栄光を掴み、アメリカ競馬殿堂入りを果たした名馬キャリーバックの生涯を紐解いていこう。

町工場経営者から競馬界へ

キャリーバックの調教師であり、実質的な馬主でもあったジャック・プライスは、48歳で町工場経営から引退し、競馬の世界に足を踏み入れた人物だった。初期は「20万ドル相当のおんぼろ馬」を所有する程度だったというが、後にキャリーバックの母となるジョッピーを含む複数の競走馬を所有し、着実に成功を積み重ねていった。ジョッピーは未勝利馬だったが、クレーミング競走で265ドルという低価格で落札された馬だった。父サギーはイースタンショアステークスなどを勝利しており、3歳時のサイテーションを破った唯一の馬としても知られている。

驚異的なスピードと出遅れ癖

キャリーバックは額に星を持ち、長い尾が特徴的な馬だった。体高は160センチメートルほどの大柄な体格で、デビュー戦は1960年1月。ハイアリアパーク競馬場で行われた未勝利戦だったが、10着と振るわなかった。しかし、その後は東海岸を転戦。2歳時は21戦に出場し、5勝を挙げた。この頃から、キャリーバックの代名詞ともいえる出遅れ癖が出始めた。それでも、勝ったレースでのパフォーマンスは高く、ガルフストリームパーク競馬場での5ハロン戦では57秒60という驚異的なタイムでトラックレコードを更新した。

2歳時にはカウディンステークス、ガーデンステートステークス、レムゼンステークスを制し、28万6299ドルの賞金を獲得。2歳馬としては2位という好成績を収めた。この年、幾度となく対戦したヘイルトゥリーズンは賞金王となったものの、9月に種子骨を骨折し引退することになり、キャリーバックはクラシック路線の大本命に躍り出た。

クラシック三冠、そして挫折

3歳シーズンのクラシック戦線では、クロージャーがライバルとして台頭した。両馬は幾度となく対戦し、互いにしのぎを削るレースが繰り広げられた。ハイアリアパーク競馬場のバハマズステークスではクロージャーに敗れたものの、続くファウンテンオブユースステークス、エバーグレイズステークス、フラミンゴステークス、フロリダダービーと勝利を重ね、クラシックへの期待感を高めていった。

ケンタッキーダービーでは、単勝1番人気に支持されたキャリーバックは、後方集団から最後の直線で驚異的な追い込みを見せ、クロージャーを交わして優勝。フロリダ産馬としてニードルズ以来のダービー制覇を達成した。続くプリークネスステークスでも、再び追い込みで勝利し、三冠への期待が膨らんだ。しかし、ベルモントステークスでは距離が長く、脚元の不調も影響し7着に敗れ、三冠達成はならなかった。

ハンデキャップを背負い戦い抜いた4歳時以降

4歳以降もキャリーバックは、ハンデキャップを背負いながらも活躍を続ける。ケルソ、ボーパープルといった強豪馬との対戦では、優劣がつけがたい接戦が繰り広げられ、メトロポリタンハンデキャップでの勝利で獲得賞金100万ドルの大台を突破するなど、数々の名勝負を生み出した。

また、芝競走への挑戦や凱旋門賞への遠征などにも挑戦したものの、思うような結果を残せず、ワシントンDCインターナショナルでは3着に敗れ、競走馬としてのキャリアに幕を閉じた。その生涯成績は61戦21勝。獲得賞金は1,241,165ドルに上った。

種牡馬として、そして殿堂入り

引退後は種牡馬として活躍。イリノイダービーを制したシャープゲイリーなどの産駒を残したが、大きな成功は収められなかった。1975年にアメリカ競馬名誉の殿堂入りを果たし、1983年に死去。その遺灰はチャーチルダウンズ[[競馬場]]に埋葬された。

キャリーバックは、出遅れ癖を持ちながらも驚異的な末脚で勝利を掴み取り続けた、実力とドラマ性を兼ね備えた名馬だった。その活躍は、今もなお多くの競馬ファンに語り継がれている。

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