サムエル・フォール

サムエル・フォール（Sir Samuel Falle）の生涯

サムエル・フォール（1919年2月19日 - 2014年2月20日）は、イギリスの外交官であり、イギリス海軍の勲章受章者でもあります。彼は駐クウェート大使、駐スウェーデン大使、シンガポール・ナイジェリアの高等弁務官を歴任し、聖マイケル・聖ジョージ勲章、ロイヤル・ヴィクトリア勲章、殊勲十字章を受勲し、サーの称号を授与されました。

生い立ちと軍歴

フォールはジャージー島で生まれ、ヴィクトリア・カレッジのジャージー校で学びました。海軍への入隊は、面接試験で評価された「ボートでの島一周」の挑戦がきっかけでした。1937年には練習艦「エレボス」に乗艦し、ドイツ海軍兵学校を訪問。このとき、将来の敵となるドイツの幹部候補生と交流しました。また、コペンハーゲンでは後に妻となるメレテと出会います。第二次世界大戦開戦時には旧式戦艦「ロイヤル・オーク」に配属され、その後重巡洋艦「ケント」に乗務しました。

1940年、デンマーク侵攻により結婚式を延期せざるを得ませんでしたが、1940年5月からは駆逐艦「エンカウンター」に配属され、空母「アーク・ロイヤル」の護衛任務などに従事。1941年12月にシンガポールへ回航されました。同月には日本とイギリスが開戦。

第二次ジャワ海海戦と「雷」による救助

1942年3月1日、第二次ジャワ海海戦（第二次スラバヤ沖海戦）において、「エンカウンター」は大日本帝国海軍によって撃沈されました。フォールは海上で21時間漂流した後、駆逐艦「雷」に救助されました。彼は「日本人は野蛮だ」という先入観を持っていましたが、「雷」艦長の工藤俊作の指示のもと、手厚い保護を受けます。この出来事は、フォールの人生に大きな影響を与え、後に彼を「雷」と工藤艦長の武士道精神を称賛する行動へと駆り立てました。フォールは、この功績により殊勲十字勲章を授与されています。

捕虜生活

救助後、フォールは病院船「オプテンノール」に移送され、3年半に及ぶ捕虜生活を送ります。スラウェシ島マカッサルの収容所では、食料不足や看守の暴力に苦しむも、収容所内の多国籍な環境を利用し、様々な外国語を学びました。その後、パマラ、そして再びマカッサルを経てジャワ島のバンドンに送られ、比較的良好な環境の収容所で生活を送りました。バンドンではマラリアを患いますが、イギリス空軍の軍医の助けにより回復します。

捕虜生活の中で、彼は収容所が日本軍によって殺害のための巨大な墓穴として利用される計画があったことを知りますが、終戦により実行されませんでした。1945年9月中旬、フォールは捕虜生活から解放され、帰国の途につきました。

外交官としてのキャリア

帰国後、フォールは海軍を辞し、1948年から外交官としてのキャリアをスタートさせます。シーラーズ、テヘラン、ベイルート、バグダッドなどへの赴任を経て、1961年から1963年にはヨーテボリの総領事を務めました。その後、国連部門長、アデンへの派遣、クアラルンプール副高等弁務官、駐クウェート大使、シンガポール高等弁務官、駐スウェーデン大使、ナイジェリア高等弁務官など、数々の要職を歴任しました。外務省退職後は、欧州委員会に勤務し、アルジェリアに派遣されています。

晩年と「雷」への感謝

フォールは、工藤艦長への感謝の念を忘れず、1987年にアメリカ海軍の機関誌に「武士道」と題する投稿文を掲載。また、タイムズ紙にも「雷」による敵兵救助の体験を投稿しました。これらの活動は、日本国内でも反響を呼び、元「雷」の砲術長であった田上俊三との交流へと繋がりました。フォールは2003年に訪日し、海上自衛隊の観艦式に参加し、田上の自宅も訪問しました。さらに、支援者の助けを得て工藤艦長の墓を訪ね、「再会」を果たしました。

フォールは、1964年に聖マイケル・聖ジョージ勲章、1972年にロイヤル・ヴィクトリア勲章を授与され、1979年には聖マイケル・聖ジョージ勲章のナイト・コマンダーを授与されています。スウェーデン王国からも北極星勲章を授与されています。彼の自伝『My Lucky Life』は、日本語訳『ありがとう武士道』としても出版されています。

サムエル・フォールは、2014年2月20日にその生涯を閉じましたが、彼の勇敢な軍人としての功績、外交官としての貢献、そして何よりも敵兵を救った「雷」との出会いは、後世に語り継がれるべき物語です。

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