タサイドン

タサイドン (THASAIDON)

タサイドンは、アメリカの幻想文学作家クラーク・アシュトン・スミスによって創造された、架空の魔神です。彼の作品世界の中でも特に知られる、遠い未来に海底から隆起した幻想と怪異の大陸「ゾティーク」において、タサイドンは強大な存在としてその名を轟かせています。

彼は「大魔王」という畏怖を込めた称号で呼ばれ、七つの地獄の絶対的な王、あらゆる邪悪の支配者、そして禁断の妖術を司る根源であると語られます。ゾティーク世界の暗黒の深淵を体現する存在として、タサイドンは多くの物語において重要な位置を占めています。

ゾティーク大陸を舞台とするスミスの小説では、多くの魔術師たちがタサイドンとの接触や契約を求めています。彼はゾティークにおける最も強力な悪魔的存在の一人であり、魔術師たちは彼と取引を行うことで、常識を超えた知識や力を得ようと試みるのです。タサイドンと魔術師たちの間に結ばれる契約や取引は、しばしば物語の核心的な要素となり、登場人物たちの運命を左右します。

タサイドンの姿そのものが直接的に描かれることは稀ですが、彼の存在を象徴し、地上世界との接点となる「像」が作られることがあります。この像は漆黒であり、強固な甲冑に身を固め、手には無数の鋭い棘がついた禍々しい戦棍を携えた、威圧的な姿で表現されます。驚くべきことに、魔術師たちはこの像を通じてタサイドンと意思疎通を図るとされており、像は単なる偶像ではなく、彼との交流を媒介する神秘的な装置として機能します。

タサイドンには五つの異なる名があるという古い伝承が存在すると言われていますが、クラーク・アシュトン・スミスの一連のゾティーク作品の中では、そのいずれの名前も具体的に明かされることはありませんでした。この名を知られざる点が、彼の存在をより一層謎めかしく、そして恐ろしいものにしています。

また、タサイドンへの信仰や畏敬を示すものとして、「ルダルのタサイドンへの連禱」と呼ばれる詩や歌が存在します。この連禱は、スミスの短編小説『イラロタの死』や『アドムファの庭園』といった作品の冒頭部分に引用されており、タサイドンが単なる悪魔というだけでなく、一部の人々にとって崇拝の対象であったことを示唆しています。

クラーク・アシュトン・スミスのゾティーク作品は、後にハワード・フィリップス・ラヴクラフトが創造したクトゥルフ神話体系へと組み込まれることになりました。しかし、ゾティークの神々や異形の存在たちの中でも、タサイドン自体の名前がクトゥルフ神話において他の著名な存在ほど広く知られているわけではないのが現状です。

ゾティークに祀られる神々や存在については、遥か太古に栄えたヒュベルボレオス、ムー、ポセイドニス（アトランティス）といった失われた大陸で崇拝されていた神々が、長い悠久の時を経て姿や名前を変えて再びゾティークに現れた存在である、という説が作品中で示唆されています。タサイドンも典型的な悪魔としての振る舞いを見せますが、彼がその遥かな過去においてどのような名で、どのように崇拝されていたのか、その起源の詳細は作品中では一切語られておらず、読者の想像に委ねられています。

登場および言及作品

タサイドンが登場、あるいはその名が言及されるクラーク・アシュトン・スミスのゾティーク作品には、主に以下のようなものがあります。

主要登場作品:
暗黒の魔像 (The Dark Eidolon)

言及作品:
墓の落とし子 (The Charnel God)
ウルアの妖術 (The Witchcraft of Ulua)
クセートゥラ (Xeethra)
ナートの降霊術 (Necromancy in Naat)
アドムファの庭園 (The Gardens of Adompha)

邦訳収録書籍

タサイドンの登場するゾティーク関連作品は、以下の邦訳作品集などに収録されています。

創元推理文庫『ゾティーク幻妖怪異譚』(クラーク・アシュトン・スミス著、大瀧啓裕訳)
ナイトランド叢書『魔術師の帝国1 ゾシーク篇』(クラーク・アシュトン・スミス著、安田均編)

タサイドンは、ゾティーク世界の深淵に潜む闇の力、魔術師たちが畏怖し、同時に渇望する禁断の力を象徴する存在として、クラーク・アシュトン・スミスの独特な世界観を彩っています。彼の存在は、ゾティークの退廃的で神秘的な雰囲気と不可分に結びついています。

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