トリプトファンとは？意味をやさしく解説

トリプトファンとは

トリプトファンは、タンパク質を構成するアミノ酸の一種であり、ヒトが体内で合成できない9種類の必須アミノ酸の一つです。化学的には、2-アミノ-3-（インドリル）プロピオン酸という名称で、略号はTrpまたはWで表されます。側鎖にインドール環を持つ芳香族アミノ酸で、糖原性・ケト原性の両方の性質を持っています。多くのタンパク質に含まれていますが、その含有量は比較的少ないとされています。

トリプトファンの重要な役割

トリプトファンは、生体内で様々な重要な物質の前駆体として機能しています。例えば、以下のものが挙げられます。

ナイアシン: 体内で活性型となるNAD(H)の原料となります。
セロトニン: 神経伝達物質であり、精神安定や幸福感に関与します。
メラトニン: 睡眠に関わるホルモンです。
キヌレニン: 生体色素の一種です。
インドール酢酸: 植物ホルモンとして成長を促進します。
トリプタミン類: インドールアルカロイドの一種で、様々な生理活性を持ちます。

トリプトファンの物性

トリプトファンは、以下の様な物理的・化学的性質を持っています。

分子量: 204.23
等電点: 5.89
溶解性: 蟻酸には溶けやすく、水には溶けにくい性質を持ちます。また、エタノールには非常に溶けにくく、希塩酸には溶けます。
溶解度: 水に対する溶解度は温度によって変化し、20℃で1.06g/100g、40℃で1.44g/100g、60℃で2.05g/100gです。
ファンデルワールス半径: 163
味: L-体は苦味があり（閾値0.9mg/ml）、D-体は甘味があります。

トリプトファンの代謝

トリプトファンの代謝経路は非常に複雑で多岐にわたります。大まかには、セロトニン経路、キヌレニン経路、インドール経路などに分類されます。これらの経路を通して、トリプトファンは様々な生理活性物質に変換されます。

トリプトファンの効果

トリプトファンは、セロトニンやメラトニンの生成を促すことで、精神安定や睡眠の質の向上に関与します。特に、不眠症、時差ボケ、うつ病などの症状の改善に役立つとされています。そのため、サプリメントとしても広く利用されています。しかし、日本では医薬品としての扱いではなく、あくまで食品扱いとなっています。

トリプトファンの過剰摂取のリスク

トリプトファンは、適切な量を摂取することで健康に良い影響をもたらしますが、過剰摂取には注意が必要です。過剰摂取や、他の栄養素、薬品との相互作用によって、以下のような副作用が報告されています。

肝性脳症のリスク: 肝硬変の患者においては、肝性脳症の発症リスクを高める可能性があります。
セロトニン症候群のリスク: トリプトファンはセロトニンの生成を促進するため、セロトニン症候群の発症リスクが懸念されます。
胎児への影響: 妊娠中の女性が過剰摂取した場合、胎児に呼吸不全などの影響を与える可能性が報告されています。

過去には、L-トリプトファンを含むサプリメントの摂取によって、好酸球増多筋痛症候群（EMS）を発症した例があり、大きな社会問題となりました。

トリプトファンを多く含む食品

トリプトファンは、タンパク質を多く含む食品に多く含まれています。具体的には、以下の様な食品が挙げられます。

肉類（鶏肉、牛肉、豚肉など）
魚介類
豆類（大豆、ヒヨコマメなど）
種実類（ゴマ、ヒマワリの種、ラッカセイなど）
乳製品（牛乳、ヨーグルト、チーズなど）
チョコレート
燕麦
バナナ
ドリアン
マンゴー
ナツメヤシ

まとめ

トリプトファンは、健康維持に不可欠な必須アミノ酸であり、様々な生理活性物質の生成に関わっています。適切な摂取は健康増進に役立ちますが、過剰摂取には注意が必要です。バランスの取れた食生活を心がけ、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることが大切です。

参考資料

Luigina Romani (April 2011). “Immunity to fungal infections”. Nature Reviews Immunology: 275-288. doi:10.1038/nri2939.
トリプトファン - 素材情報データベース＜有効性情報＞（国立健康・栄養研究所）

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