ネムノキ

ネムノキ（合歓木）

ネムノキ（学名: Albizia julibrissin）は、マメ科ネムノキ亜科に属する落葉高木です。別名としてネム、ネブとも呼ばれ、その特徴的な就眠運動や美しい花が人々に親しまれています。山地や河岸など、比較的明るい場所を好んで自生し、その独特な生態は多くの人々を魅了しています。

名称の由来

和名「ネムノキ」は、夜になると葉が合わさって閉じる様子が眠るように見えることから「眠る木」に由来します。漢字名の「合歓木」は、葉が合わさる様子を表し、中国では夫婦円満の象徴とされています。また、中国植物名（漢語）では「合歓（ごうかん）」と呼ばれ、その他にも「馬纓花」「絨花樹」「合昏」「夜合」「鳥絨」といった異名があります。日本では地方によって「ネブノキ」「ネブタノキ」「コウカンボ」「コウカンボク」などの方言名で呼ばれることもあります。

分布と生育地

ネムノキは、イラン、アフガニスタン、中国南部、朝鮮半島、そして日本の本州、四国、九州、南西諸島に分布しています。日本では山野や河岸に自生しており、北海道では自生は見られないものの、植栽されたものが一部地域で見られます。特に明るい砂地や川沿いを好む傾向があり、ヨーロッパへは18世紀に持ち込まれました。ネムノキ属は熱帯を中心に約150種が分布しますが、ネムノキは特に耐寒性が強く、温帯地域でも広く栽培され、一部では野生化しています。

特徴

ネムノキは、高さ6～10mになる落葉広葉樹の小高木または中高木で、成長が比較的早く、枝は横に広がります。樹皮は灰褐色で縦筋があり、一年枝は暗緑褐色でジグザグ状に曲がっています。葉は大型の2回偶数羽状複葉で、小葉は昼に開き、夜になると閉じます（就眠運動）。

花期は夏（6～7月）で、淡紅色の花が多数集まって頭状花序を形成します。花は夕方に開き、翌日にはしぼみます。マメ科の花ですが、花弁は目立たず、雄しべが長く突き出るのが特徴です。香りは桃のように甘く、果実は細長い豆果（莢果）で、冬まで枝に残ります。冬芽は葉痕に隠れており、春になると現れます。陽樹であり、荒れ地に最初に侵入する先駆植物の一つです。

就眠運動

ネムノキの就眠運動は、葉の付け根にある葉枕という細胞の内部圧力の変化によって起こります。これは概日リズムに従っており、夜でなくても、高温時などにも見られることがあります。

栽培

栽培は比較的容易で、日当たりの良い場所に植え、湿り気のある土壌を好みます。種子は春に蒔き、植栽適期は10月中旬～11月、2月下旬～3月、6月下旬～7月です。剪定を嫌う性質があり、施肥は1～3月に行います。

利用

観賞用として庭園や街路樹として利用されるほか、材は器具材や木工品に、葉の粉末は抹香に利用されます。また、害虫駆除や鎮痛、家畜の飼料などにも用いられます。塩害に強いため、海岸線の防風林としても古くから利用されてきました。

植栽

独特の樹形と涼しげな葉、美しい花は観賞価値が高く、広い庭に単独で植えられます。園芸品種には、枝垂れ性の「シダレネムノキ」や、銅紫色の葉を持つ「サマーチョコレート」などがあります。河原のような砂地を好む性質から、砂防用にも利用されることがあります。

薬用

中国医学では、花を乾燥させたものを「合歓花（ごうかんか）」と呼び、精神安定や不眠解消の効果があるとされています。樹皮は「合歓皮（ごうかんひ）」と呼ばれ、利尿、強壮、鎮痛効果があり、不眠や不安にも効果があるとされています。民間では、花や樹皮を煎じて服用し、ストレス性の不眠や不安、関節痛や腰痛の緩和に利用されます。また、打撲や挫傷には、合歓皮を黒焼きにして湿布として用いられることもあります。

文化

ネムノキの花言葉は「歓喜」です。夏の季語として、万葉集や松尾芭蕉、与謝蕪村の句にも登場します。雨に濡れて花が垂れる様子を、中国の美女になぞらえた句もあります。江戸時代の名所絵にも描かれるなど、古くから人々に愛されてきました。

関連する動物

ネムノキはキチョウの食草であり、オオクモヘリカメムシがよく見られます。根には根粒菌が共生しています。

近縁種

近縁種には、ギンネム、タイワンネム、オオバネムノキなどがあります。

参考文献

貝津好孝『日本の薬草』小学館、1995年
草川俊『有用草木博物事典』東京堂出版
国吉純『想いを贈る花言葉』ナツメ社
鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽：四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社、2014年
辻井達一『日本の樹木』中央公論社、1995年
辻井達一『続・日本の樹木』中央公論新社、2006年
馬場篤『薬草500種－栽培から効用まで』誠文堂新光社、1996年
平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年
菱山忠三郎『ポケット判 身近な樹木』主婦の友社、2003年
正木覚『ナチュラルガーデン樹木図鑑』講談社、2012年
山﨑誠子『植栽大図鑑［改訂版］』エクスナレッジ、2019年
渡辺一夫『アジサイはなぜ葉にアルミ毒をためるのか：樹木19種の個性と生き残り戦略』築地書館、2017年

関連項目

オジギソウ

外部リンク

ネムノキ - 森林総合研究所

もう一度検索