バーソロミュー・ロバーツ

バーソロミュー・ロバーツ（Bartholomew Roberts, 1682年 - 1722年 2月10日）は、ウェールズ出身の著名な海賊です。18世紀初頭の「海賊の黄金時代」において、最後にして最大の海賊として知られ、生涯で約400隻、金額にして5千万ポンドに及ぶ船舶を掠奪したと伝えられています。「ブラック・バート（Black Bart）」の異名でも広く知られ、海賊史上最も成功した一人とされています。彼の死は、しばしば海賊黄金時代の終わりを象徴する出来事として語られます。

海賊稼業への転身

1682年、南ウェールズのペンブルックシャーで誕生したとされますが、幼少期から青年期にかけての詳細は不明です。出生名はジョン・ロバーツですが、後にバッカニアのバーソロミュー・シャープにちなんで改名した可能性が指摘されています。

彼の運命が変わったのは1719年。イギリスの奴隷船「プリンセス」号の二等航海士としてロンドンを出港した彼は、翌年2月、西アフリカ沖で同郷の海賊ハウエル・デイヴィスに捕えられ、海賊の一員となりました。当初、海賊行為を嫌悪していたロバーツですが、他の多くの海賊と同様、その世界での出世の可能性に魅力を感じるようになります。

キャプテン・チャールズ・ジョンソンの著書『海賊史』によれば、ロバーツは海賊になることについてこう語ったとされます。

「まっとうな船乗りは、食事は質素で給料も安い上に、仕事は過酷だ。それに比べてこの稼業は、腹いっぱい食べられ、楽しみや自由、そして力を手に入れられる。たとえ危険な仕事に失敗しても、少しの苦難を乗り越えれば済む。どちらの稼業が得か、考えるまでもないだろう。私の生き方は、楽しく、短く生きることだ。」

この言葉は、彼が海賊として生きることを選択した哲学を示唆しています。

船長としての飛躍

デイヴィスの一味に加わってから数週間後、僚船が沈没したため、デイヴィスは乗組員を自身の船に乗せました。ポルトガル領プリンシペ島に寄港した際、デイヴィスは総督誘拐を企てますが、計画が露見し、待ち伏せを受けて射殺されます。船長を失った一味は新たなリーダーを選出する必要に迫られ、海賊入りしてわずか6週間弱のロバーツが、その有能さから満場一致で船長に選ばれました。

新船長となったロバーツは、まず亡きデイヴィスの復讐を誓います。部下たちはこれに賛同し、プリンシペ島の要塞を襲撃して破壊、港の船舶にも壊滅的な打撃を与えました。この大胆な行動は、彼が率いる一味の結束を強固なものとしました。

復讐の後、南へ向かった一味は多くの船を掠奪し、カリブ海から南米沿岸へと活動範囲を広げます。特にブラジル沖では、リスボンへ向かう42隻からなるポルトガル船団を発見。武装した護衛艦が合流する前という危険を冒し、大胆にも船団に紛れ込んで最も価値の高い船を襲撃しました。激しい戦闘の末、これを拿捕。積荷には砂糖や煙草に加え、大量の金製品、宝飾品、そして4万枚ものモイドール金貨が含まれており、中にはポルトガル国王のために作られたダイヤ入りの十字架もあったとされます。この驚異的な成功は、ロバーツの名声を確立しました。

掟の制定と裏切り

ブラジルでの大成功の後、一味は略奪品を消費するため、スリナム河口の島へ向かいます。しかし、ここで悲劇が起こります。食糧不足から、ブリガンティン船を追跡するため一部の部下と共にスループ船で分かれて行動していたロバーツは、目標を見失った上、悪天候で漂流してしまいます。本船に救援を求めますが、戻ってきたのは、残した部下の一人であるウォルター・ケネディが本船と略奪品を持って逃亡したという衝撃的な知らせでした。

ケネディの裏切りに激怒したロバーツは、二度とこのような事態が起きないよう、一味をより規律正しく、公正な集団にするため、厳格な「掟（Articles）」を起草しました。この掟は、海賊の黄金時代における海賊船内の規律を示す貴重な資料であり、投票権や略奪品の分配方法、禁止事項などが詳細に定められています。

広大な活動範囲と最期

残されたスループ船で活動を再開したロバーツ一味は、カリブ海、ニューファンドランド、そして再び西アフリカへと、広範囲にわたって略奪を繰り返しました。特にバルバドス島とマルティニーク島の総督が彼を捕えようとしたことに憤慨し、自らが二つの髑髏を踏みつける姿を描いた独自の海賊旗を作成。旗には「ABH（バルバドス人の頭）」「AMH（マルティニーク人の頭）」という文字が描かれていたとされます。

西アフリカのギニア湾では、多くの奴隷船や商船を拿捕。ウィダー港では11隻の船から身代金を得ましたが、奴隷船「ポーキュパイン」号の非協力的な態度に対し、船ごと火を放つという残虐な行為に出ました。この際、船内に残された奴隷たちが凄惨な最期を遂げたことは、海賊行為の暗黒面を示すエピソードです。

1722年2月、ウィダーを離れたロバーツ一味は、イギリス軍艦スワロー号に追跡されていることを知ります。ロペス岬沖でスワロー号に捕捉されたロバーツは、僚船レンジャー号を塮兵として送り出しますが、これはスワロー号の巧妙な罠でした。レンジャー号が拿捕された後、2月10日、本船ロイヤル・フォーチュン号はスワロー号の奇襲を受けます。ロバーツは乗組員を鼓舞し応戦しますが、戦闘中に砲撃の破片が喉を貫通し、即死しました。彼の遺体は、生前の意向通り、豪華な衣装を纏い、愛用の武器と共に海に投じられました。

ロバーツの死後、意気消沈した一味は降伏。捕えられた海賊たちはケープ・コーストで行われた大規模な裁判にかけられ、多数が処刑されるか強制労働に処せられました。一方、ロバーツを討伐したスワロー号のオーグル艦長はナイトに叙勲され、提督にまで昇進しました。

人物像と掟

チャールズ・ジョンソンの記述によれば、ロバーツは長身で浅黒い肌をした、40歳に満たないハンサムでおしゃれな男でした。特に目を引いたのはその服装で、真紅のベストと半ズボン、赤い羽飾りの帽子、首にはダイヤの十字架がついた金の鎖、肩には二丁のピストルを吊るした緋色の帯という出で立ちでした。

酒を飲まず茶を愛飲し、規律を重んじる性格で、乗組員の不摂生を改めさせようとしましたが、結局その努力は実りませんでした。皮肉なことに、彼が最期を迎えた時、多くの部下は泥酔状態だったといいます。

彼が制定した「掟」は、海賊団の運営規則として有名です。その内容は、乗組員の投票権と略奪品の平等な分配、賭博や女性の乗船禁止、戦闘からの逃亡に対する厳しい罰則、船内での争いを決闘で解決すること、負傷者への補償、船長や士官の取り分などが定められていました。

文化への影響

バーソロミュー・ロバーツは、その劇的な生涯と成功、そして明確な規則を持っていたことから、後世のフィクション作品に大きな影響を与えています。ロバート・ルイス・スティーブンソンの『宝島』で言及されたり、ウィリアム・ゴールドマンの小説『プリンセス・ブライド』、漫画『ONE PIECE|ONE_PIECE』、ビデオゲーム『アサシンクリード IV ブラックフラッグ』、『Fate/Grand Order|Fate_Grand Order』などにインスピレーションを与えた人物として登場しています。

また、故郷ウェールズでは、彼にちなんだスパイスド・ラム「Barti Ddu Spiced」が販売されており、地元ゆかりの海賊として記憶されています。

参考文献

チャールズ・ジョンソン『イギリス海賊史（上）』朝比奈一郎訳、リブロポート、1983年。
増田義郎『図説海賊』河出書房新社、2006年。
* デイヴィッド・コーディングリ著、増田義郎監修、増田義郎・竹内和世訳『図説海賊大全』東洋書林、2000年。

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