ファットマン

ファットマン：長崎に投下された原子爆弾

ファットマンは、第二次世界大戦末期、アメリカ合衆国が開発した原子爆弾です。アメリカ軍の分類番号はMk.3。人類史上初の核実験であるトリニティ実験で使用されたガジェットと同型で、プルトニウムを用いたインプロージョン方式（爆縮方式）を採用しています。これは、同じくマンハッタン計画で作られたウラン型原子爆弾「リトルボーイ」（Mark 1）とは異なる方式です。リトルボーイがガンバレル型であったのに対し、ファットマンはより複雑な爆縮レンズを用いていました。

1945年8月9日、アメリカ軍のB-29爆撃機「ボックスカー」によって長崎市の上空で炸裂。広島への原子爆弾投下よりも若干高い威力（TNT換算約21キロトン）でしたが、長崎市の起伏の多い地形のために、広島市ほど広範囲な被害はもたらしませんでした。それでも、約7万3900人の死者、約7万4900人の負傷者、6.7平方キロメートルに及ぶ被害面積、1万2900棟以上の建物が全焼または全壊するなど、甚大な被害を出しました。

開発経緯

ファットマンの開発は、1941年から開始されたマンハッタン計画の一環として行われました。当初はウラン型原子爆弾の開発が先行していましたが、プルトニウムを用いた原子爆弾の開発も並行して進められました。1943年にはガンバレル型（Mark 2、コードネーム「シンマン」）とインプロージョン方式（Mark 3、コードネーム「ファットマン」）の両方が検討されましたが、最終的には精度や威力の点からインプロージョン方式が採用され、ガンバレル型は放棄されました。

ファットマン開発において重要な技術的課題は、プルトニウムの核分裂を効率的に誘発する爆縮レンズの設計でした。これは、ジョン・フォン・ノイマンらによって完成された技術で、プルトニウムを球状に圧縮し、臨界状態に到達させることで、強力な核爆発を実現します。プルトニウムはワシントン州ハンフォードのB原子炉で生産されました。ファットマンのプロトタイプである「ガジェット」を用いたトリニティ実験は、1945年7月16日にニューメキシコ州で実施され、人類史上初の核爆発実験となりました。

命名の由来

ファットマンという名称は、爆弾の形状に由来しています。丸みを帯びたずんぐりとした形状から、マンハッタン計画に参加した物理学者ロバート・サーバーが、ダシール・ハメットの小説『マルタの鷹』に登場するキャラクター「カスパー・ガットマン」にちなんで命名したとされています。一方、「シンマン」は細長い形状から、同小説の別作品『影なき男』の主人公にちなんで命名されたとされています。

構造と構成部品

ファットマンは、爆縮レンズ、プルトニウム、中性子点火器、起爆装置などから構成されています。爆縮レンズには2500キログラムもの爆薬が使用され、その内部にプルトニウムとウランが配置されていました。爆縮レンズは、極めて精密なタイミングで点火される多数の起爆雷管によって制御され、プルトニウムを効率的に圧縮します。中性子点火器は、核分裂連鎖反応を開始させるための装置で、ベリリウムとポロニウムの組み合わせによって中性子を放出します。

ファットマンの組み立ては、安全上の理由と設計上の理由から、使用直前に行われました。完成状態では、事故により核爆発が起きる可能性があるためです。また、起爆装置の電源には高圧コンデンサが使用されており、完成状態では電池が短時間で劣化するため、使用直前に組み立て、使用後は分解して電池を交換する必要がありました。

戦後

ファットマンは戦後も生産が続けられ、1940年代のアメリカ軍の核戦力を支えました。改良型であるMark 4の生産は1949年から開始されました。しかし、ハンフォードのプルトニウム生産炉の損傷や、戦争終結による優先順位の低下により、生産量は減少しました。1947年にはロスアラモス国立研究所にファットマン60発分の部品が、アメリカ兵器廠には使用可能なファットマン型原爆13発が保管されていました。1948年までに50発、1949年までに120発が生産されました。

まとめ

ファットマンは、第二次世界大戦における核兵器開発の到達点であり、その後の核兵器開発に大きな影響を与えた兵器です。その構造と開発経緯を知ることは、歴史を理解し、未来を考える上で非常に重要です。

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