ミズダコ

ミズダコ（水蛸）

ミズダコ（学名: Enteroctopus dofleini）は、マダコ科に属するタコの一種で、世界最大のタコとして知られています。「ミズダコ」という名前は、その身が柔らかく水っぽいことに由来します。別名として「オオダコ（大蛸）」とも呼ばれます。

分布

ミズダコは寒海性のタコで、主に日本の東北地方以北の海域、特に北太平洋に広く分布しています。アラスカやカナダなど、北アメリカ大陸の北西部沿岸海域にも生息しています。

特徴

ミズダコは、タコ類の中でも最大級の大きさを誇り、体、吸盤ともに非常に大きいのが特徴です。体長は足を広げると3〜5メートル、体重は10〜50キログラムにも達します。最大記録では、体長9.1メートル、体重272キログラムという巨大な個体も確認されています。口にあるカラストンビは人の握り拳ほどの大きさがあり、これで餌となるカニの甲羅や貝殻を噛み砕きます。しかし、他のタコに見られる唾液のチラミン毒素の強さについては、まだ解明されていません。

カナダ方面では、体長3.5メートルに達する大型個体も少なくありません。生息域が寒冷な海域であるため、マダコなどに比べて生態的に未解明な部分が多く残されています。体のほとんどが柔軟な筋肉で構成されているため、非常に力が強く、巨大な個体に絡まれると人間でも危険な場合があります。実際に、潜水中のダイバーが襲われて溺死した例も報告されています。ただし、ミズダコは近づきすぎたり刺激したりしない限り、故意に人を攻撃することはありません。また、陸上では重い体重を支えることができず、ほとんど動けなくなってしまいます。

生態

ミズダコの餌は、ケガニやタラバガニなどの大型甲殻類、魚類、ホタテガイなどの貝類、ウニなど多岐にわたります。手当たり次第に捕獲し、貪欲に食べることから、大型に成長できる要因として、寒冷な海域に生息することで大型甲殻類などの餌が豊富であること、他のタコ類との競争が少ないことが考えられます。

天敵としては、イルカ、ラッコ、アザラシ、トドなどの海生哺乳類や、サメ類などの大型魚類が挙げられます。襲われると、周囲のものに擬態したり、墨を吐いたりして逃走を試みます。捕食されるのは小さな個体であることが多く、十分に成長した成体にはあまり敵はいないと考えられます。しかし、巨大な個体は逆にサメを捕食してしまうこともあり、水族館では同じ水槽内にいたアブラツノザメを攻撃し、死亡させた例も報告されています。

ミズダコは、孵化後に水中を浮遊して過ごし、生後100日前後に海底に降りて生活を始めます。低い水温を好み、季節によって浅い海と深い海を行き来します。繁殖は10月頃に行われ、生後2年の夏場から繁殖に備えて急激に巨大化する個体が現れます。しかし、全てのミズダコが一斉に成熟するわけではなく、交接機会の多寡などの条件によって成熟化のスイッチが入らず、未成熟なまま死亡する場合もあると考えられています。

寿命は他の多くのタコと同様に2〜3年とされています。雄は雌と交尾した後に一生を終え、雌は卵を守り、孵化を見届けた後に死を迎えます。地域によっては4年ほど生きる個体もいると言われています。

雌雄の違いとして、雄の方が体も吸盤も大きく、相手を捕らえて抱え込んだり吸い付く力が強いことが挙げられます。また、吸盤の配列が歪になっていることも特徴です。一方、雌は雄に比べて吸盤の配列や大きさが比較的均等です。

ミズダコは、他のタコと同様に高い知能を持っており、周囲の状況に擬態したり、迷路を解いたりすることができます。

利用

ミズダコは食用として人間によって捕獲されており、体が大きいことから水産上重要な種と見なされています。蛸壺を使った漁獲が一般的です。マダコの流通が少ない北海道や東北地方では、タコといえばミズダコを指すことが多く、北海道では最も漁獲量の多いタコです。需要が高い一方で、乱獲による個体数の減少も懸念されています。また、「北海ダコ」という別名もあります。

利用部位

マダコに比べて皮膚だけでなく肉質も柔らかく、水っぽいことが和名の由来となっています。かつてはその水っぽさからマダコに比べて評価が低かったものの、マダコの漁獲量減少により見直されています。「旨みが強いマダコより美味しくない」という意見がある一方で、「食感としてはミズダコの方が歯触りが良い」という声や、吸盤が大きいミズダコを好む人もいます。体の大きさから、タウリンの含有量ではマダコを上回ります。また、ミズダコの中でも雌の方が雄よりも味が良いと言われています。

料理方法としては、刺身（足・頭）、寿司、たこ焼き（足・頭）の他に、おでんや塩茹で、たこしゃぶ、唐揚げ、汁物、干物、燻製、酢蛸、塩辛などがあります。北海道・東北地方では、マダコの代わりに様々なタコ料理に利用され、正月料理に使われるタコの多くがミズダコです。一般的にタコは足の方が利用価値が高いとされますが、産地では足よりも胴（頭）の方が利用頻度が高い傾向にあります（足よりも頭の方が安価であるため）。その他、口（顎板：通称タコトンビ）も流通しています。北国では肝臓や卵巣などの内臓を「道具」と呼び、食用とすることがあります。

水族館での飼育

ミズダコは水族館でも飼育されており、展示・公開されています。

関連項目

* ダイオウイカ

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