ヴィオラソナタ

ヴィオラ・ソナタとは

ヴィオラ・ソナタは、楽器としてのヴィオラのために作曲されたソナタ形式の楽曲群を指します。その最も典型的な形態は、ヴィオラとピアノのための二重奏ソナタですが、特に20世紀に入ってからは、伴奏を伴わないヴィオラ独奏のためのソナタも数多く作曲されるようになりました。

歴史的変遷

歴史的に見ると、ヴィオラはヴァイオリンやチェロに比べ、独奏楽器として扱われる機会が限られていました。特にロマン派音楽の時代には、ヴィオラがオーケストラの主要な一員であったにもかかわらず、独奏楽器としてはほとんど注目されず、ヴィオラ・ソナタやヴィオラのための協奏曲、その他の独奏曲は非常に少ない状況でした。この時代の数少ない、しかし今日でも特に重要とされる作品が、ヨハネス・ブラームスによって作曲された2曲のソナタ Op. 120です。これらは元々クラリネットのために書かれた作品ですが、作曲家自身によってヴィオラ版も作られ、ヴィオラ奏者にとってかけがえのないレパートリーとなっています。

20世紀に入ると状況は大きく変わります。ライオネル・ターティスやウィリアム・プリムローズといった傑出したヴィオラ奏者が登場し、楽器の持つ音色の魅力や表現力が再認識されました。彼らの演奏活動は作曲家たちにインスピレーションを与え、ヴィオラを主要楽器とする作品が飛躍的に増加します。ヴィオラ・ソナタもこの流れの中で数多く生み出されました。

この時代の最も重要な作曲家の一人に、パウル・ヒンデミットが挙げられます。彼は作曲家であると同時に卓越したヴィオラ奏者でもあり、自身の楽器のために多大な貢献をしました。ヒンデミットはヴィオラとピアノのためのソナタを3曲（Op. 11-4, Op. 25-4, 1939年作曲）、そして無伴奏ヴィオラ・ソナタを4曲（Op. 11-5, Op. 25-1, Op. 31-4, 1937年作曲）作曲しており、これらの作品はヴィオラ作品の主要な柱となっています。

また、20世紀後半には、ドミートリイ・ショスタコーヴィチがその最晩年に作曲したヴィオラ・ソナタ Op. 147が、このジャンルにおける金字塔となりました。彼の最後の作品としても知られるこのソナタは、深い精神性と革新的な書法を持ち合わせ、ヴィオラ・ソナタ全体の歴史においても、ショスタコーヴィチの作品群においても極めて重要な位置を占めています。

多様な形式と主要作品

ヴィオラ・ソナタは、必ずしも「ソナタ」という名称を持つものだけを指すわけではありません。独奏ヴィオラのために書かれた重要な作品の中には、組曲や幻想曲、練習曲、カプリスなど、様々な形式名を持つものも含まれます。

無伴奏ヴィオラ・ソナタやそれに類する作品としては、ニコロ・パガニーニに触発されたカンパニョーリの「41のカプリス」Op. 22、マックス・レーガーの「3つの無伴奏ヴィオラ組曲」Op. 131d、パウル・ヒンデミットの多作な無伴奏ソナタ群、ジェルジュ・リゲティの最晩年の傑作などが特筆されます。

ヴィオラとピアノのためのソナタはさらに多様な広がりを見せます。ロマン派のブラームスに加えて、20世紀以降では、アーノルド・バックスやレベッカ・クラーク（彼女のソナタは国際コンクールで入賞し有名となりました）、ボフスラフ・マルティヌー、ベンジャミン・ブリテン、前述のヒンデミットやショスタコーヴィチなどが重要な作品を残しています。また、日本の作曲家である諸井三郎や矢代秋雄、石井歓、武満徹、林光らもヴィオラを含む室内楽作品を手がけています。

ヴィオラ・ソナタは現在、ヴィオラの主要なレパートリーの一つとして確立されており、その歴史はヴィオラという楽器自体の独奏楽器としての地位向上と密接に関わっています。

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