ヴルトゥーム

クトゥルフ神話と火星を舞台にした異星人の物語、『ヴルトゥーム』

クラーク・アシュトン・スミスによって1935年に発表された短編小説『ヴルトゥーム (Vulthoom)』は、クトゥルフ神話に新たな邪神を導入した作品として知られています。本作は、火星を舞台に、太陽系外から来た異星人ヴルトゥームとその信者たち、そして地球人との出会いと対立を描いた、SFホラー作品です。

作品の概要

『ヴルトゥーム』は、スミスのアイハイ（火星）三部作の一つであり、他の2作品とは異なり未来的なSF要素が色濃く反映されています。ヴルトゥームは、宇宙船の墜落事故によって火星にたどり着いた、太陽系外からの存在です。高度な科学技術を持つヴルトゥームは、火星の先住民であるアイハイ人にその技術を提供し、崇拝されるようになります。しかし、その支配は完全ではなく、やがてヴルトゥームは地下世界ラヴォルモスへと潜伏することになります。

物語は、現代の火星で交易が行われるようになった時代から始まります。貧しい地球人2人組、ヘインズとチャンラーは、ある人物からの誘いによってラヴォルモスへと案内されます。そこで彼らは、神話上の存在としか思っていなかったヴルトゥームとその信者たちと遭遇します。ヴルトゥームは、地球征服を企み、2人に協力を求めます。しかし、2人はヴルトゥームの策略を見抜き、脱出を試みます。激しい追跡劇の末、ヘインズは驚くべき方法でヴルトゥームとラヴォルモスの住人たちを1000年間眠らせることに成功します。

ヴルトゥーム：邪神としての存在

ヴルトゥームは、巨大な球根植物のような姿をした存在です。花弁の中から妖精のような上半身が伸び出し、魅惑的な芳香で周囲の人間を操ります。スミス初期の作品ではクトゥルフ神話とは独立した存在でしたが、後にラムジー・キャンベルやリン・カーターらの作品でクトゥルフ神話の旧支配者として位置付けられるようになりました。カーターの作品では、ヴルトゥームはクトゥルフやツァトゥグァの兄弟もしくは異母兄弟として描かれ、ヨグ＝ソトースの子孫とする説も存在します。

アイハイ族と火星

本作に登場するアイハイ族は、火星の環境に適応した知的生命体です。多くは地球人と交易を行っていますが、ヴルトゥームを崇拝するカルト集団も存在します。TRPGなどでは、アイハイ族はヴルトゥームに仕える奉仕種族として扱われることもあります。また、TRPGの設定では、H・G・ウェルズの『宇宙戦争』に登場するタコ型の火星人も存在し、火星には複数の異星種族が存在することになっています。

まとめ

『ヴルトゥーム』は、クトゥルフ神話の世界観に新たな要素を加えた、魅力的な作品です。火星を舞台にした異星人の侵略、陰謀、そしてスリリングな脱出劇は、読者に忘れられない体験を与えてくれます。ヴルトゥームという邪神は、その独特の姿や能力、そしてクトゥルフ神話における複雑な位置付けによって、多くのファンを魅了し続けています。また、この作品は、宇宙開発や異星文明との接触といったテーマを、ホラーとSFという独特の視点から提示しており、現代においてもなお新鮮な驚きを与えてくれるでしょう。さらに、この作品は、単なるクトゥルフ神話の派生作品としてだけでなく、スミス独自の宇宙観や創造性を反映した、独立した価値を持つ作品としても高く評価されています。

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