下間頼廉

下間頼廉：石山本願寺を支えた智将の生涯

下間頼廉は、戦国時代から江戸時代初期にかけて活躍した、石山本願寺に仕えた稀代の僧侶にして武将です。幼名は虎寿、通称は源十郎、右兵衛尉と名乗り、後に剃髪して刑部卿と号しました。法名は了入、了悟で、法橋、法眼、法印の位に叙せられました。

頼廉の出自は、石山本願寺の坊官を務めた家系です。父は下間頼康、母は下間頼次の娘にあたります。彼は、本願寺10世法主・証如から源十郎の名を与えられ、後に右兵衛尉、そして刑部卿と改名しました。これは、僧侶でありながら、朝廷からの官位を受けたことを示し、その地位の高さを物語っています。

顕如の側近として

頼廉は本願寺11世法主・顕如に仕え、その側近として活躍しました。元亀2年（1571年）には、奏者として重要な役割を担い、同族の下間頼総、下間頼資とともに奏者3人制を確立しました。頼総は下間氏嫡流であり上座でもあったため、頼廉は頼総の名代も兼ねていたと考えられます。

奏者として、頼廉は顕如の命令を記した御書添状や御印書を発給し、諸国へ伝達する役割を担いました。これは単なる軍事的な役割だけでなく、本願寺の行政面においても重要な役割を担っていたことを示しています。さらに、顕如の長男・教如と次男・顕尊の奉者も務め、顕如への忠誠を尽くしました。

石山合戦における活躍

石山合戦においては、頼廉は軍事面でも重要な役割を果たしました。雑賀孫一こと鈴木重秀とともに、本願寺軍の武将として織田軍を苦しめ、「大坂之左右之大将」とまで呼ばれたと伝えられています。しかし頼廉の役割は軍事指揮官にとどまりません。七里頼周による加賀での無法行為に対して文書を発し、内政面にも深く関わっていたことが記録に残っています。

合戦中、頼廉は奏者として重要な役割を担いつつ、顕如の側近として活動しました。足利義昭の警護にも派遣され、雑賀御坊との連絡も密に行っていました。上杉謙信の勝利や毛利氏との共同作戦に関する情報を伝え、顕如の指示を諸国に伝達しました。荒木村重の離反にも呼応し、雑賀御坊に鉄砲衆の派遣を依頼するなど、積極的な外交活動も行っていました。しかし、村重の敗北や三木合戦での別所長治の自決によって、本願寺は次第に劣勢に立たされることになります。

本願寺の移転と豊臣秀吉との関わり

天正8年（1580年）、石山本願寺が織田軍に敗色濃厚となると、顕如は和睦交渉を行い、本願寺は退去することとなりました。頼廉は、顕如に従って本願寺を退去し、各地で抵抗を続ける一向宗徒の説得に当たりました。その後、顕如が豊臣秀吉と接近すると、頼廉は秀吉との交渉にも関与しました。賤ヶ岳の戦いでは、顕如の門徒の協力を感謝され、貝塚への本願寺移転（貝塚本願寺、後の願泉寺）では伝令を務めました。小牧・長久手の戦いでは、門徒の蜂起について秀吉から問われました。天満本願寺への移転命令にも従事するなど、秀吉との関わりは晩年まで続きました。天正14年（1586年）には法印に任ぜられました。

本願寺町奉行と寺内特権の変遷

天正17年（1589年）、頼廉は秀吉から七条猪熊に宅地を与えられ、下間仲孝とともに本願寺町奉行に任じられました。しかし、浪人たちの潜伏が発覚し、寺内町は厳しい成敗を受けました。この事件によって、本願寺の寺内特権は大きく制限されることとなりました。しかし、寺内掟によって、一定の特権は維持されたという見方もあります。

本願寺の分裂と晩年

天正20年（1592年）、顕如が亡くなると、頼廉は葬儀で太刀持を務めました。しかし、教如と准如の本願寺相続問題では、秀吉の裁定に異議を唱え、一時的に勘気を蒙りました。後に赦免され、准如を支持し続けました。しかし、息子たちの問題により、准如の怒りを買うことにもなりました。慶長5年（1600年）には奏者の職務を解かれ、寛永3年（1626年）、90歳で亡くなりました。子孫は刑部卿家と呼ばれ、代々西本願寺に仕えました。

下間頼廉は、軍事、政治、外交など様々な面で本願寺を支え続けた、まさに稀代の智将であったと言えるでしょう。彼の生涯は、激動の戦国時代から江戸時代初期にかけての本願寺の歴史を深く理解する上で、欠かせない重要な鍵となります。

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