元禄小判

元禄小判とは

元禄小判は、江戸幕府が元禄8年（1695年）に発行した一両小判です。慶長小判に次ぐ金貨として、当時の経済を支える重要な役割を果たしました。元禄小判、元禄一分判、元禄二朱判は総称して「元禄金」または「元字金」と呼ばれ、同時に改鋳された元禄銀と合わせて「元禄金銀」と称されます。

元禄小判の特徴

元禄小判の表面には、鏨で茣蓙目が刻まれ、上下に桐紋を囲む扇枠があります。中央上部には「壹两」、下部には「光次（花押）」の極印が打たれています。裏面には中央に花押、下部の左端に小判師の験極印、吹所の験極印、さらに花押の左に「元」字が打印されています。「元」字の最後の跳ねが長い「長元」と短い「短元」があり、かつては短元を京都で製造したとする説がありましたが、実際には江戸で製造されたと考えられています。佐渡金山でも鋳造されたという記録がありますが、現存するものは確認されていません。

元禄小判発行の背景

江戸時代初期、佐渡金山などからの産金量が減少したことに加え、生糸貿易などで金銀が海外に流出しました。新井白石の『本朝寳貨通用事略』によると、慶安元年（1648年）から宝永5年（1708年）までの61年間に、金239万7600両余、銀37万4209貫余が流出したとされています。さらに、人口増加や参勤交代による経済発展に伴い、全国的な市場圏が形成され、通貨不足が深刻化しました。明暦の大火の復興費用や、幕府の蓄財の減少も、通貨改鋳の要因となりました。

元禄の貨幣改鋳

勘定吟味役の荻原重秀は、貨幣の金銀含有量を下げ、通貨量を増やすために貨幣改鋳を行いました。これは、品位を下げることで改鋳利益を得る目的がありました。慶長期には自宅で鋳造していた方式を改め、江戸本郷の吹所に金座人と銀座人を集めて鋳造を行いました。この改鋳により、慶長小判2枚分の地金で新たに小判3枚が鋳造できるようになり、通貨量は1.5倍に増加しました。しかし、これは同時に貨幣価値の低下、つまりインフレーションを招くものでした。交換に際し、慶長金に対して1%の増歩しかつけなかったため、良質な慶長金を退蔵する人が多く、元禄金は量目は同じでも、銀の含有量が多く、白っぽく、脆いため、評判は非常に悪いものでした。

元禄金銀の通用

改鋳と同時に、幕府は元禄金銀を慶長金銀と同等に通用させるよう通達しました。しかし、実際には、元禄金は質が低かったため、市場では混乱が生じました。特に、東北地方の不作による飢饉と重なり、物価が高騰しました。丁銀の品位低下が4/5にとどまったのに対し、小判は2/3となったため、銀相場が高騰し、金遣いの江戸では物価上昇が顕著でした。幕府は金一両=銀60目に御定相場を改正し、両替商を取り締まりましたが、相場は変動し、市場の混乱は収まりませんでした。

元禄の改鋳による影響

元禄の改鋳は、幕府に莫大な出目（通貨発行益）をもたらしましたが、同時にインフレーションを引き起こし、経済を混乱させる要因となりました。当時の国際決済では金銀の純分が重視されており、貨幣の素材価値も取引の重要な要素でした。そのため、品位を低下させた元禄金は、市場で歓迎されませんでした。

元禄一分判と元禄二朱判

元禄一分判は、元禄小判と同品位で、1/4の量目で作られた長方形短冊形の一分判です。表面には扇枠の桐紋と「分一」の文字、裏面には「光次（花押）」と「元」の極印が打たれています。元禄二朱判は、元禄小判と同品位で、1/8の量目で作られた長方形短冊形の二朱判です。表面には扇枠の桐紋と「朱二」の文字、裏面には「光次」と「元」の極印が打たれています。二朱判は、一分判未満の取引に重宝され、元禄金の優位性を高めるために導入されました。

元禄金の量目と品位

元禄小判の規定量目は慶長小判と同じく四匁七分六厘（17.76グラム）ですが、実測値の平均はやや重くなっています。品位は、金57.37%、銀42.63%と規定されていますが、実際には若干の誤差があります。銀含有量の多い合金は青みを帯びた淡黄色になるため、表面を金色に見せる色揚げが行われました。

元禄金の鋳造量と幕府の利益

元禄金の総鋳造量は、小判、一分判、二朱判合わせて約1400万両に達するとされています。この改鋳により、幕府は427万両以上の出目を得たとされます。また、金座における鋳造手数料も、金座人の収入源となりました。

元禄金の終焉

元禄小判、一分判は、享保2年末に通用停止となり、新金（正徳小判、享保小判）と2対1の割合で交換されました。元禄二朱判は、宝永7年に通用停止となりました。

参考文献

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草間直方『三貨図彙』1815年。
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西脇康 校訂・補編『対読 吾職秘鑑 -小判師坂倉九郎次の秘録-』書信館出版、2001年。
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瀧澤武雄，西脇康『日本史小百科「貨幣」』東京堂出版、1999年。
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日本貨幣商協同組合 編『日本の貨幣-収集の手引き-』日本貨幣商協同組合、1998年。
大蔵省造幣局 編『皇国造幣寮首長第三周年報告書』大蔵省造幣局、1874年。
* 大蔵省造幣局 編『造幣局百年史（資料編）』大蔵省造幣局、1971年。

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