即興曲

即興曲（Impromptu）とは

即興曲、あるいはフランス語の名称であるアンプロンプチュ（またはアンプロンプテュ）は、比較的自由な構成で書かれた性格的小品の一種です。その名称が「即興」という言葉を連想させるように、形式にとらわれず、作曲家の瞬間的なひらめきや感情を表現したかのような雰囲気を持ちます。しかし、実際の作品は、即興的にその場で演奏されるものではなく、周到な構想のもとに作曲されています。楽章の一部や短い挿入句として用いられることが多かった即興的な音楽の概念は、19世紀に入り独立した小品形式として確立されました。

名称の由来と歴史

「即興曲」を意味する"Impromptu"という言葉は、ラテン語の"in prōmptū"に由来します。これは「準備なしに」「即座に対応できる状態」を意味し、音楽の文脈では「即座に音楽を興す」といった意味合いで捉えられました。

この語が音楽作品の題名として初めて使われたのは、チェコの作曲家ヤン・ヴァーツラフ・ヴォジーシェクが1821年に発表した『6つの即興曲 作品7』であるとされています。ただし、この名称はヴォジーシェク自身ではなく、出版社によって付けられた可能性が高いという説が有力です。18世紀以前には、"Impromptu"は音楽以外の分野、例えば即興的な詩や劇の幕間の短い出し物などを指す言葉として用いられていました。音楽においても、それ以前からトッカータやカプリッチョ（奇想曲）など、自由で即興的な性格を持つ楽曲は存在しており、「即興風」という発想自体は決して新しいものではありませんでしたが、「即興曲」という独立したジャンル名として定着したのは19世紀以降のことと言えます。

代表的な作曲家と作品

即興曲は、19世紀ロマン派の作曲家を中心に多くの作品が書かれました。特に有名なのは、フランツ・シューベルトとフレデリック・ショパンです。

シューベルトは、「4つの即興曲 作品90, D 899」と「4つの即興曲 作品142, D 935」をそれぞれ4曲ずつ作曲しており、これらは即興曲のジャンルを代表する作品として広く親しまれています。

ショパンも4曲の即興曲を遺しており、「即興曲第1番 変イ長調 作品29」、「即興曲第2番 嬰ヘ長調 作品36」、「即興曲第3番 変ト長調 作品51」、そして特に有名な「幻想即興曲（即興曲第4番 嬰ハ短調 作品66）」があります。彼の即興曲は、豊かな旋律と洗練されたピアニズムが特徴です。

他にも、ロベルト・シューマンはクララ・ヴィークの主題による即興曲（作品5）を、フランツ・リストは夜想曲風の即興曲や即興円舞曲など、多様なスタイルの即興曲を作曲しています。ヨハン・ネポムク・フンメルやベドルジハ・スメタナも即興曲を手がけています。

19世紀後半から20世紀にかけても、この形式は受け継がれました。カミーユ・サン＝サーンス、ジョルジュ・ビゼー、ピョートル・チャイコフスキー、エマニュエル・シャブリエ、ガブリエル・フォーレ、ジャン・シベリウス、アレクサンドル・スクリャービン、マックス・レーガー、エルマンノ・ヴォルフ＝フェラーリ、アレクサンドル・ゲディケ、バルトーク・ベーラ、ジャック・イベール、ダリウス・ミヨー、ジョージ・ガーシュウィン、フランシス・プーランク、ロベール・カサドシュ、ウィリアム・ウォルトン、ニコライ・カプースチンなど、多くの作曲家が即興曲の形式で作品を発表しています。中には、バルトークのようにハンガリー民謡を取り入れたり、カプースチンのようにジャズの語法を融合させたりと、作曲家それぞれの個性が色濃く反映された作品が見られます。

このように、即興曲は形式的な枠にとらわれすぎず、作曲家の感性や瞬間の着想を音楽として定着させるための柔軟な器として、時代を超えて愛され、多様な傑作が生み出されています。性格的小品として、その自由な表現の中に深い情感や色彩豊かな響きを見出すことができるでしょう。

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