安田能元

安田 能元

戦国時代末期から江戸時代初期にかけて活躍した武将、安田能元は、上杉氏の重臣として知られ、「上杉二十五将」の一人に数えられます。

出自

安田能元は、鎌倉幕府の初代政所別当であった大江広元を祖とする家系の末裔であり、毛利氏の庶流にあたります。そのため、資料によっては毛利姓で記されることもあります。同族の安田長秀らが属する大見安田氏とは異なり、区別のため「毛利安田氏」とも呼ばれます。

生涯

能元は弘治3年（1557年）、越後国の安田城主・安田景元の子として生まれました。幼い頃から上杉謙信に小姓として仕え、「弥九郎」の名を与えられました。

謙信の没後、天正6年（1578年）に勃発した「御館の乱」では、兄の顕元と共に上杉景勝を支持して戦いました。しかし、乱後の論功行賞で景勝の直臣である上田衆が恩賞を独占したことに、新発田重家らが反発。顕元は彼らを仲裁しようと努めましたが失敗に終わり、その責任を感じて自害してしまいます。これを受けて能元が家督を継承し、天正8年（1580年）には父祖伝来の本領を安堵された上、堀江宗親の旧領も加増されました。

天正10年（1582年）から始まった新発田重家の乱の鎮圧にも参加。その過程での放生橋の戦いにおいて、殿軍を務めた際に片足を負傷し、この時の後遺症が終生残りました。以降、彼はその足を引きずる様子から「跛上総（ちんばかずさ）」という渾名で呼ばれることになります。

天正14年（1586年）、上杉氏が豊臣秀吉に臣従すると、能元はその優れた内政手腕を買われ、景勝が領国を離れる際には政務を任されるようになりました。文禄元年（1592年）の文禄の役の際には、藤田信吉と共に越後春日山城の留守居役を務めています。この頃の知行高は2474石でした。

慶長3年（1598年）、上杉氏が会津120万石へ移封されると、能元は浅香城と二本松城の守備を任されました。この時の知行高は11000石に増加しており、岩井信能、大石綱元と共に会津三奉行の一員、しかも筆頭に任ぜられています。伏見城に滞在していた景勝からは、神指城の築城、道橋の普請、浪人の召抱え、武具の整備など、領国経営に関する重要な指示を受け、これを遂行しました。この時期、上杉家に仕官した前田利益（前田慶次）とも親交を結んだとされています。

慶長5年（1600年）の関ヶ原の戦いでは、上杉氏討伐のため会津へ向かう徳川家康率いる東軍に備え、小峰城を守備しました。革籠原での戦いでは島津忠直と共に一番隊を率いる予定でしたが、東軍の西上により関ヶ原で石田三成らの西軍が敗北したため、この布陣は実現しませんでした。慶長6年（1601年）、上杉氏が出羽国米沢30万石に減封されると、能元も会津の城を退去し、米沢へ移りました。

米沢移封後は、直江兼続らと共に城下町の整備や町割りに尽力します。この時の知行高は4330石となりました。慶長7年（1602年）には、直江兼続の主催で、大国実頼、岩井信能、春日元忠、前田利益といった面々と共に亀岡文殊堂で歌会を開き、その際の作品が「直江兼続等詩歌百首帖」として奉納されています。また、慶長17年（1612年）には、直江兼続、水原親憲らと共に「十七箇条の家中法度」の制定にも携わっています。

慶長19年（1614年）に始まった大坂冬の陣にも従軍しました。当初は一番隊に配される予定でしたが、景勝の采配により第二陣に配置換えされました。これは、一番隊の若い須田長義に名誉を与えることと、激戦が予想される中で能元のような熟練の将の部隊を温存する戦略的な意図があったとされます。鴫野の戦いにおいて、上杉勢は当初優勢でしたが、数の利がある大野治房の部隊に徐々に押され、一番隊の須田隊が崩されてしまいます。この窮地に対し、後詰だった水原親憲が鉄砲隊で大野隊を足止めする間に、能元は配下の500の兵を率いて大野隊に突撃し、見事に敵軍を撃退する活躍を見せました。

合戦後、多くの武将が徳川家康・秀忠父子から感状や褒美を授与される中、能元には何も与えられませんでした。これは、関ヶ原以降に徳川氏との外交を担当した直江兼続との関係が険悪になっていたためともいわれています。この件について能元は「感状を賜らなかったことを不名誉とは思わない。自分は主君である殿のために戦ったのであり、大御所様や将軍様のためではない」と述べ、関ヶ原で主家を徳川との戦に導きながら、大坂の陣で秀忠から感状を受けて喜んでいる兼続への皮肉とも取れる言葉を残したとされます。これを聞いた兼続は何も答えられなかったといいます。

元和8年6月25日（1622年8月2日）、能元は66歳で生涯を閉じました。家督は那波氏から養子に迎えた俊広が継承しました。

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