尚歯会

尚歯会（しょうしかい）

尚歯会は、江戸時代後期に蘭学者、儒学者をはじめとする幅広い分野の学者・技術者・官僚などが集まって発足した会の名称です。主宰は遠藤泰通（遠藤勝助）でした。

概要

尚歯会の構成員には、高野長英、小関三英、渡辺崋山、江川英龍、川路聖謨などが名を連ねています。シーボルトに学んだ鳴滝塾の卒業生や、江戸で吉田長淑に学んだ者たちが中心となって結成されました。

当初、尚歯会は天保の大飢饉などの相次ぐ飢饉対策を講じるために結成されたといわれています。従来の通説では西洋の学問を中心にした集まりとされていましたが、主宰の泰通は儒学者であり、蘭学に限らず、より幅広い分野を扱う集団であったようです。鎖国下の当時、西洋の学問を学ぶことはある程度容認されていましたが、幕府によって制限が設けられていました。そのため、表向きには「歯を大切にする」という意味の「尚歯」を会の名前に使い、高齢の隠居者・知恵者やそれを慕う者の集まりとしました。

尚歯会で議論された内容は、当時の蘭学の主流であった医学・語学・数学・天文学にとどまらず、政治・経済・国防など多岐にわたりました。一時は老中・水野忠邦もこの集団に注目し、西洋対策に知恵を借りようと試みていたとされます。しかし、これが災いして、幕府内の蘭学を嫌う保守勢力の中心であった鳥居耀蔵によって、長英は投獄、崋山は禁固（蟄居）となり、三英も逮捕をおそれて自殺しました（蛮社の獄）。蛮社とは尚歯会の蔑称です。近年までは江戸時代における一大思想弾圧事件として扱われていましたが、実際には鳥居による政敵排除のための冤罪事件という見方が強まっています。

しかし、尚歯会の会員で蛮社の獄で断罪されたのは崋山と長英のみであり、その容疑も海外渡航や幕政批判・処士横議でした。会の主宰であった遠藤をはじめ他の関係者は処罰されておらず、尚歯会自体が弾圧されたわけではないという指摘もあります。尚歯会の実態には不明な点も少なくありませんが、藤田東湖や松崎慊堂も会員であった一方で、江川や川路は尚歯会の会員ではなく、水野が尚歯会に力を借りようとした事実もないとされています。蛮社の獄は、緩み始めた鎖国の排他的な閉鎖性を幕府が引き締めようとした事件であるという説も提示されています。

一般名詞としての尚歯会

尚歯とは、「尚」はとうとぶ、「歯」は年歯、年齢を意味し、老人を大切にし、敬うこと、つまり敬老を意味します。

尚歯会は、最高齢の主人を含む7人の高齢者が招かれ、あるいは集まり、詩賦や和歌を作る、音楽歌舞の遊宴です。7人は「七叟」と、その他は「垣下」といって相伴しました。もとは845年、中国（唐）で白居易が催した故事が起源です。

日本における尚歯会は、貞観19年（877年）、南淵年名によってその山荘で行なわれたのが最初であるとされています。「皇年代略記」陽成には「元慶元年三月大納言南淵年名設二尚歯会宴一」とあり、「濫觴抄」下には「尚歯会　陽成二年丁酉（貞観十九）三月南淵年名設」とあります。

その後、安和2年（969年）3月13日、藤原在衡によって粟田山荘で、天承元年（1131年）3月（20日とも22日とも）、藤原宗忠によって白河山荘で、それぞれ開かれましたが、これらは白居易の先例にならって詩賦の遊宴でした。

承安2年（1172年）3月19日、藤原清輔によって白河の宝荘厳院において催されたのが、和歌の尚歯会の最初です。

ついで養和2年（1182年）、賀茂重保もまたこれを襲い、これ以後、尚歯会は詩賦と和歌との2つに分かれました。

江戸時代になると年賀の席で兼ねて行なわれ、また連歌、俳諧を交えても行なわれました。

現代でも、敬老会として「尚歯会」の名が使われることがあります。

参考文献

* 田中弘之『「蛮社の獄」のすべて』（2011年 吉川弘文館）

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