惟喬親王

惟喬親王：波乱に満ちた生涯と、文化への貢献

惟喬親王（これたかしんのう）は、平安時代初期の皇族で、文徳天皇の第一皇子として生まれました。母は紀名虎の娘である紀静子で、小野宮と号しました。官位は四品・弾正尹にまで昇りました。

皇位継承争いと失意

父である文徳天皇は、当初、第一皇子である惟喬親王を皇位継承者とすることを考えていました。しかし、藤原良房の反対により、第四皇子である惟仁親王（後の清和天皇）が皇太子に立てられることになります。この背景には、惟喬親王の母が紀氏出身であり、後ろ盾が弱かったこと、そして、惟仁親王の母が良房の娘であったことが影響したとされています。また、惟喬親王が皇位を継承した場合、将来的に両統迭立が起こる可能性を危惧したという説もあります。

この決定は、朝廷内に不満を残し、後世にも議論の対象となりました。一条天皇の時代には、皇太子を巡る争いの中で、惟喬親王の境遇が引き合いに出され、その是非が議論されたといいます。

皇位継承を巡っては、藤原良房と紀名虎が、それぞれ真言僧に修法を行わせたり、相撲で決着をつけたという伝説も残っています。しかし、これらの逸話はあくまで伝説であり、史実とは異なる可能性が高いです。

失意の中での出家と隠棲

皇位継承者となれなかった惟喬親王は、天安元年（857年）に元服して四品に叙せられ、天安2年（858年）には14歳で大宰権帥に任ぜられました。その後、大宰帥・弾正尹・常陸太守・上野太守などの官職を歴任しました。しかし、貞観14年（872年）に病のため出家し、素覚と号して小野に隠棲しました。

隠棲後は、山崎や水無瀬にも住み、最終的には京都市北区雲ケ畑の岩屋山金峯寺（志明院）に宮を建てて移り住みました。耕雲入道と名乗り、宮を耕雲寺（高雲禅寺）としたとも言われています。在原業平や紀有常らも親王の元を訪れたと伝えられています。

晩年は、病に倒れ、金峯寺を避けて、小野郷、大森の地に移り、寛平9年（897年）に54歳で亡くなりました。

文化人としての側面

惟喬親王は、勅撰歌人としても知られており、『古今和歌集』には2首、『後撰和歌集』を含めると計6首の歌が収録されています。また、幼少期には乳母に抱かれて夜泣峠を越えた際に、地蔵に願をかけると夜泣きが止まったという逸話が残されており、現在も峠には祠が建っています。

木地師の祖としての信仰

惟喬親王は、木地師の祖としても崇敬されています。近江国蛭谷（現：滋賀県東近江市）で隠棲していた際に、住民に木工技術を伝えたのが木地師のはじまりであると伝えられています。このため、全国の山間部で惟喬親王を祀る神社が存在します。

日本の国歌である「君が代」は、作詞者不明とされていますが、木地師の藤原朝臣石位左衛門が仕えていた惟喬親王に詠んだ歌であるという説もあります。また、惟喬親王を支持した紀氏が、側近だった者らを顕彰し六歌仙となったとも言われています。

惟喬親王を祀る主な神社

惟喬神社：京都市北区雲ケ畑出谷町に所在。惟喬親王が愛育していた雌鳥が死んだこの地に祠を建てられたと云われています。
玄武神社：京都市北区紫野雲林町に所在。京都三大奇祭の一つ「やすらい祭」発祥の地。
大皇器地祖神社：滋賀県東近江市君ヶ畑に所在。
筒井神社：滋賀県東近江市蛭谷に所在。
惟喬親王社：滋賀県甲賀市土山町山女原池ヶ原に所在。
小野宮惟喬親王神社：宮城県白石市に所在。通称「こけし神社」。

墓所

安楽寺：京都市北区大森東に所在。平安時代初期作とみられる薬師如来坐像が安置されています。
筒井峠：滋賀県東近江市に所在。惟喬親王御陵の伝承地とされています。

結び

惟喬親王は、皇位継承争いに巻き込まれ、不遇な生涯を送りましたが、その才能と人柄は多くの人々を魅了し、後世にも大きな影響を与えました。文化人として、また木地師の祖として、その名は今もなお語り継がれています。

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