数学II

数学IIの変遷

数学IIは、高等学校数学科の科目の一つで、その内容は時代とともに大きく変化してきました。本稿では、数学IIの歴史を振り返り、その内容の変遷を詳細に解説します。

数学IIの登場

数学IIは、1956年の学習指導要領で初めて登場しました。それまで高等学校では「解析II」という科目が、数学の初歩から発展した内容を扱っていました。しかし、「解析II」の内容は、現在の数学IIと数学IIIの両方に相当する広範囲なものであり、確率・統計も含まれていました。また、ベクトルや線形代数の内容が少ないという問題点がありました。

そこで、1956年の学習指導要領では、高校数学の履修内容を段階化し、発展的な内容を学習できるように、数学I、数学II、数学IIIの3科目が設置されました。数学IIの発足時の履修内容は以下の通りです。

方程式
因数定理
分数方程式・無理方程式
関数とそのグラフ
グラフの概形のとらえ方
指数関数・対数関数のグラフ
二次関数・三次関数のグラフ
分数関数のグラフ
三角関数とその性質
一般角の三角関数とそのグラフ
三角関数の加法定理
図形とその方程式
直線の方程式・円の方程式
二次曲線とその方程式
楕円・双曲線・放物線に帰着する軌跡

このときから、数学IIの履修内容として、高次方程式、三角関数、指数関数、対数関数、極限という大枠が定まりましたが、ベクトルは含まれず、微分・積分法の内容は限定的でした。

数学IIA・数学IIBへの分割

1963年度から施行された学習指導要領では、数学IIは「数学IIA」と「数学IIB」に分割されました。IIAは実務的な内容を重視しており、1956年度の内容から、方程式や三角関数、解析幾何の内容が削除され、計算法や確率・統計、数列が追加されました。また、初歩的な微分・積分の内容が強化されました。IIBは1956年度の数学IIを継承・発展させたもので、内容はもちろんのこと、数学IIIの履修の前提となる科目でした。当時の履修内容は以下の通りです。

順列と組合せ
場合の数の数え方
順列と組合せ
二項定理
数列と級数
等差数列、等比数列
その他の数列
無限等比級数
三角関数とベクトル
三角形への応用
正弦定理・余弦定理、三角形の面積
加法定理
ベクトル
ベクトルの意味
加法、減法、実数との乗法、内積
図形と座標
二次曲線
座標軸の平行移動・回転
曲線の表わし方
媒介変数による表わし方
極座標による表わし方
微分法
微分係数
導関数とその計算
導関数の応用
積分法
積分の意味
積分の計算
積分の応用

この改定により、数列やベクトルが登場し、微分・積分の初歩的な内容まで踏み込むようになりました。

現代化カリキュラム

1973年度から施行された学習指導要領は「現代化カリキュラム」と呼ばれ、内容が非常に多いものでした。しかし、IIAとIIBの履修内容の量自体はそれほど増加していません。IIAでは行列と電子計算機、流れ図が追加され、数列や計算法は削除されました。IIBでは解析幾何、平面上の曲線、順列と組合せ（二項定理を除く）が削除され、行列、空間におけるベクトル、公理が追加されました。

数学II・数学Bへの分割

現代化カリキュラムは内容が濃密すぎたため、1978年の学習指導要領以降、内容の削除や先送りがされました。1982年度の学習指導要領では、IIBを「代数・幾何」「基礎解析」「確率・統計」の3科目に分割し、IIAの系統のみが数学IIとなりました。数学IIの内容は以下の通りです。

確率と統計
順列・組合せ
確率
統計
ベクトル
ベクトルとその演算
ベクトルの応用
微分と積分
微分係数の意味
導関数とその応用
積分の意味
数列
等差数列
等比数列
いろいろな関数
指数関数
対数関数
三角関数
電子計算機と流れ図
電子計算機の機能
アルゴリズムと流れ図

この改定では、公理系は削除されましたが、対数などは2年次以降の内容に戻りました。また、大学共通第1次学力試験や大学入試センター試験では、数学IIが受験科目となりました。

1994年度版

1994年度版では、「簡易版」と「進学系」の系統を廃止し、ローマ数字系とアルファベット系に再編されました。数学IIでは、平面図形と式が数学Iから移行し、微分・積分に関する内容の大部分が数学IIIへ移行しました。また、高次方程式は数学Bへ、弧度法は数学IIIへ移されました。センター試験では、数学IIまたは数学II・数学Bのどちらかを選択できるようになりました。

2003年度版

2003年度版では、代数的な内容を大幅に数学Bへ移した反動からか、高次方程式や弧度法が数学IIに戻されました。数学Bでは複素数平面が削除され、小学6年・中学2年から資料の整理が“統計とコンピュータ”として移行しました。

2012年度版

2012年度版では、数学IIは2003年度版と大きな差はありませんでした。数学Bでは“統計とコンピュータ”の内容が小学6年、中学1年、数学Iに分割移行され、“数値計算とコンピュータ”も削除されました。一方、数学Aから期待値が、数学Cから確率分布と統計的な推測が移行されました。

2022年度版

2022年度版では、前の版から大きな変化はありませんでした。現在の数学IIの主な内容は以下の通りです。

式と証明
3次式の因数分解・3次式以上の展開（多項定理）
多項式の割り算
恒等式
分数式の計算
等式・不等式の証明
複素数と方程式
複素数
2次方程式解と判別式
解と係数の関係・解の存在範囲
剰余の定理と因数定理
高次方程式
図形と方程式
直線上の点・平面上の点
直線の方程式・2直線の関係
線対称・点と直線の距離
円の方程式
円と直線
2つの円
軌跡と方程式
不等式の表す領域
三角関数
一般角と弧度法
三角関数
三角関数の性質・グラフ
三角関数の応用
加法定理
加法定理の応用
三角関数の和と積の公式
三角関数の合成
指数関数・対数関数
指数の拡張
指数関数
対数とその性質
対数関数
常用対数
微分法・積分法
微分係数と導関数
接線
関数の増減と極大・極小
最大値・最小値・方程式・不等式
不定積分
定積分
面積

まとめ

数学IIは、その登場から現在に至るまで、何度も内容が変更されてきました。この変遷は、時代の変化や教育に対する考え方の変化を反映しており、数学教育の歴史を語る上で重要な要素となっています。数学IIは、高校数学において基礎となる科目であり、その内容は大学での数学の学習にも繋がる重要なものです。

関連項目

数学 (教科)
大学入試センター試験
代数・幾何
基礎解析
確率・統計

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