月輪寺

月輪寺：愛宕山の静寂に包まれた歴史と自然の宝庫

京都市右京区嵯峨清滝月ノ輪町に佇む月輪寺は、天台宗に属する山岳寺院です。鎌倉山を山号とし、本尊は阿弥陀如来。京都盆地の西にそびえる愛宕山の東側、深い山中に位置しており、周囲には人家はなく、麓の清滝から山道を徒歩で約1時間30分登らなければ到達できない秘境と言えるでしょう。

歴史の深淵：創建から現代まで

月輪寺の創建は、愛宕神社（愛宕権現）の歴史と深く関わっています。愛宕神社は火伏せの神として知られ、古くは神仏習合の信仰が行われる修験道の道場でした。寺の縁起によると、文武天皇の大宝4年（704年）、役小角と雲遍上人が愛宕山麓を訪れた際、天狗が現れ、その地を聖地としたことが始まりとされています。

光仁天皇の天応元年（781年）には、慶俊僧都と和気清麻呂が愛宕山を中興し、唐の五台山になぞらえ、5箇所の峰に寺を建立しました。月輪寺は「愛宕五坊」の一つであり、現在も残る寺院としては神護寺とともに貴重な存在です。開山は泰澄、中興は慶俊と伝えられています。寺号の由来は、創建時に地中から見つかった銅鏡の銘「人天満月輪」からとられたとされています。

平安時代には空也上人が修行を行い、清少納言が隠棲して亡くなったという伝承も残ります。鎌倉幕府の九条兼実も、失脚後に当寺で隠棲したとされ、このことから山号を鎌倉山としたとも伝えられています。浄土宗の祖である法然と親鸞も、承元の法難前に当寺を訪れ、九条兼実と別離を惜しんだとされています。三人の像は「三祖像」として寺宝となっていますが、歴史的経緯から、実際にその時代のものかどうかは不明瞭です。

戦国時代には、本能寺の変の際に明智光秀が戦勝祈願のため当寺を訪れたという逸話も残ります。明治時代の神仏分離・廃仏毀釈を経て、現在も寺院として存続し、2012年の集中豪雨による被害からの復興も成し遂げています。

文化財と自然：数々の宝が眠る地

月輪寺には、平安時代からの貴重な仏像群が数多く残されています。重要文化財に指定されている木造阿弥陀如来坐像を始め、十一面観音立像、千手観音立像など、いずれも歴史的価値の高い仏像です。これらの仏像は、寺の長い歴史と信仰の深さを物語っています。

境内には、親鸞聖人お手植えと伝わる志ぐれ桜や、清少納言、清原元輔、九条兼実、菅原道真らの墓所もあります。また、境内にあるホンシャクナゲは、京都市指定天然記念物に登録されており、その壮大な姿は訪れる人の心を掴みます。空也上人が龍神から授かったとされる霊水「龍奇水」も、現在も湧き出ており、参拝者や登山者に利用されています。

アクセスと拝観

月輪寺へのアクセスは、京都バス清滝バス停から山道を徒歩約1時間30分です。愛宕神社への表参道とは異なるルートとなります。拝観時間は9:00～16:00、拝観料は200円です。宝物殿の拝観には事前連絡が必要で、平日限定、拝観料500円となります。雨天時は拝観できませんので、ご注意ください。静寂な山道と歴史に触れ、心穏やかなひとときを過ごせる場所です。

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