田代三喜

田代三喜（たしろ さんき）

田代三喜は、寛正6年（1465年）に生まれ、天文13年（1544年）に没した、室町・戦国時代の医師です。後世派医学の創始者であり、その卓越した医療技術から「医聖」と称えられました。曲直瀬道三や永田徳本らと並び、日本における中医学の中興の祖として知られています。三喜は通称であり、諱は導道、字（あざな）は祖範です。範翁、廻翁、支山人、意足軒、日玄、善道といった多くの号を持っていたことからも、その多才さが窺えます。

生涯

田代三喜の生涯については、明治時代に服部甫菴がまとめた『三喜備考』が広く知られています。

三喜は、源平時代の武将である田代信綱の八世の孫である田代兼綱の子として、武蔵国川越の西方、現在の埼玉県越生町で誕生しました。田代氏はもともと伊豆国の豪族でしたが、兼綱の代に武蔵国に移り住んだとされています。文明11年（1479年）には、鎌倉の妙心寺で僧侶としての道を歩み始めます。その後、長享元年（1487年）から明応7年（1498年）にかけて明へ渡り、現地の医学を学ぶ機会を得ました。当時、明では金・元代に李東垣や朱丹渓の流れを汲む当流医学が隆盛しており、三喜は僧医の月湖に師事し、これらの医学を深く修得しました。

宮本義己の研究によると、三喜は実際には永正3年（1506年）に堺から明へ渡り、大永4年（1524年）に帰国したとされています。

帰国後、三喜はしばらく下野国足利に滞在し、永正6年（1509年）には関東管領（古河公方）の足利成氏に招聘され、下総国古河に移り住みます。そこで、成氏の主侍医として仕えることとなり、僧籍を離れて妻を娶りました。また、同年には猪苗代兼載を治療した記録が残っています。

大永4年（1524年）には武蔵国に戻り、関東一円を巡回しながら医療活動を行い、多くの人々を病苦から救いました。その功績から、「足利の三帰」「古河の三喜」と呼ばれるようになり、「医聖」として広く敬われるようになりました。享禄4年（1531年）には、足利学校に在籍していた曲直瀬道三と佐野市赤見で出会い、道三の才能を見抜いて医術を指導し、後継者として育てました。

三喜は亡くなる直前まで口述を続け、79歳でその生涯を閉じました。古河市の永仙院跡には、昭和初期に植えられた「三喜松」と、「医聖田代三喜翁供養碑」が建てられています。

著書

田代三喜は、以下の著作を残しました。

『三帰廻翁医書』
『三喜直指篇』
『三喜流秘伝書』

これらの著作は、後世の医学研究に大きな影響を与えました。

医学思想

三喜は、明で学んだ当流医学を基盤とし、独自の医学理論を構築しました。特に、後世派医学の創始者として、その影響は計り知れません。後世派医学は、病因を「内因」と「外因」に分類し、個々の体質や症状に応じた治療を重視するもので、それまでの医学に新たな視点をもたらしました。

影響

田代三喜の医学は、曲直瀬道三など多くの弟子たちに受け継がれ、日本の医学の発展に大きく貢献しました。また、その医療活動は、多くの人々を病苦から救い、医聖として広く尊敬を集めています。

関連事項

一里飴: 田代三喜が創製した医薬飴がルーツとされる、埼玉県の銘菓です。彼の医療活動が、地域文化にも影響を与えたことが伺えます。
漢方薬: 三喜が中医学を基礎とした医療を行ったことから、漢方薬との関連も深く、その知識と技術は、日本の漢方医学の発展に大きく貢献しました。
後世派: 田代三喜が創始した医学の一派であり、病気の治療において個々の体質や症状を考慮する点が特徴です。
* 曲直瀬道三: 三喜の弟子であり、後世派医学を継承した医師として、その名が知られています。

田代三喜は、日本の医学史において重要な人物であり、その功績は後世に語り継がれるべきものです。

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