童子

童子

「童子」という言葉は、広くは子供を指す一般的な呼称です。かつては、貴族などの身分の高い人々に仕え、身の回りの世話をする少年のことも童子と呼びました。その姿かたちが子供のようであったことから、このように呼ばれたと考えられます。

仏教における童子

この言葉は、仏教の文脈で特に重要かつ多義的に用いられます。サンスクリット語の「kumāra」の訳語であり、主に三つの異なる意味合いで使われています。

1. 菩薩（仏の王子）: 悟りを開く前の釈迦牟尼仏のように、修行中の高い境地にいる者を指す場合があります。この場合は、仏の教えを受け継ぎ、将来仏となるべき「王子」のような存在としての意味合いが込められています。
2. 仏・菩薩・明王などの眷属: 仏様や菩薩様、明王様といった主要な尊格に付き従う者たちの名前に付けられます。これは、主尊を守護し、その活動を助ける存在であることを示しており、不動明王の脇に控える矜羯羅童子（こんがらどうじ）や制多迦童子（せいたかどうじ）などがその代表例です。
3. 寺院で修行する少年: 仏門に入り、正式な出家である「得度」を済ませていない年少の修行僧を指します。彼らは寺院で仏典の学習に励む傍ら、掃除などの雑役に従事します。女子の場合は「童女（どうにょ）」と呼ばれます。

寺院における童子の詳細

寺院で修行する少年としての童子には、年齢に関して様々な規定が見られます。一例として、8歳から20歳未満の少年を指すことがありますが、特定の年齢に関わらず、髪を結ったまま寺で雑務を行う者も存在しました。『大智度論（だいちどろん）』では、数え年で4歳以上20歳未満の者が童子であると説かれています。彼らは法要などの儀式にも補助として参加することがあります。

年齢や寺での経験に応じて、童子はさらに細かく分類されることもありました。経験を積んだ者は「中童子」、さらに高位の者は「大童子」と呼ばれました。特に、僧侶の身近にあって奥向きの用事などを務める高位の側近の童子は、「上童子（じょうどうじ）」と呼ばれ、重要な役割を担っていました。

童子の例

仏教典籍には様々な童子が登場します。例えば、『華厳経（けごんきょう）』に登場する善財童子（ぜんざいどうじ）は、悟りを求めて様々な師を訪ねる求道者として知られています。また、金剛杖や金剛杵（こんごうしょ）を持つ金剛童子（金剛手、こんごうしゅ）は、仏法を守護する存在です。

密教や日本の神仏習合の信仰においても童子の名は見られます。不動明王の眷属である矜羯羅童子・制多迦童子に加え、春日赤童子（かすがあかどうじ）なども密教系で知られる童子です。また、高野山で興った両部神道（りょうぶしんとう）では、日本の最高神とされる天照大神（あまてらすおおみかみ）を「雨宝童子（うほうどうじ）」と呼んで本地仏（ほんじぶつ）と見なした例も見られます。さらに、仏教の護法善神（ごほうぜんしん）が「護法童子（ごほうどうじ）」または「天童（てんどう）」と呼ばれることもあります。

民間伝承や文学作品にも童子の名は登場し、座敷童子（ざしきわらし）や酒呑童子（しゅてんどうじ）、茨木童子（いばらきどうじ）などが広く知られています。

戒名の位号

仏式での葬儀において授けられる戒名（かいみょう）においても、「童子」は位号として用いられます。これは主に、亡くなった子供に対して与えられるもので、宗派によって基準は異なりますが、概ね数え年で15歳くらいまでの子供に付けられます。この場合も、女子には「童女」の位号が用いられます。

「童子」という言葉は、単に子供を指すだけでなく、宗教的、歴史的、文化的に多様な意味合いを持つ言葉として、様々な場面で使われています。

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