職原抄

職原抄（しょくげんしょう）について

『職原抄』は、中世日本における有職故実書で、全2巻からなる重要な文献です。鎌倉時代の後期から南北朝時代の初めにかけて、公卿の北畠親房が、後村上天皇のために常陸国小田城で執筆したとされます。この書物の成立は興国元年（1340年）にあたりますが、その内容は官位や官職に関する詳細な情報が含まれており、当時の日本の官制の理解に欠かせない資料となっています。

概要

『職原抄』には、日本の官制の成立過程、官位の昇進や補任の流れに加え、それに伴う儀式の詳細が記録されています。また、各官職の任命に必要な家格や各種職掌についても詳述されています。具体的には、各省や寮、司、職、及び所などの職責に加え、その唐名も記載されています（例：大臣の「三公」や弁官の「握蘭の職」など）。

この書物は、『群書類従』の官職部72巻に収められており、慶長13年（1608年）には中原職忠によって校訂され、活字印刷本として刊行されました。このことからも、その重要性がうかがえます。

後世の評価と加筆

『職原抄』の中には、吉田定房に関する批評が含まれており、彼が大納言の位を持ちながらも準大臣宣下を受けたことについての非難が記述されています。このような記録から、親房が家格を重視する人物であったという評価もなされていますが、この箇所には後世の加筆があったのではないかとの指摘も存在します。したがって、この記述だけを基に親房の思想を評価することは、慎重に行う必要があります。

『職原抄』が編纂された時期は、親房が常陸国に下向し、南朝の代表としての立場を重視していたことから、恩賞として官位を武士に配る活動を積極的に行っていたことも見逃せません。例えば、彼自身は正平6年（1352年）に准三宮の宣下を受けたものの、その地位を持つこと自体が非常に異例なもので、北畠家は通常、そのような地位にあったことは事実としてないとされています。

このような背景から、親房の行動と、『職原抄』に記された内容との不一致が、後世の加筆説に対する根拠を強める要因となっているのです。21世紀の初頭に至っては、親房は南朝の権力を強化するために伝統を重んじつつも、新しい制度の導入を躊躇わない合理的な人物であったとの見解が広まりつつあります。

注釈書

『職原抄』自体は長い歴史を持つため、多くの注釈書も出版されています。以下はその一部です：

• - 清原宣賢による『職原私抄』（室町時代）
• - 植木悦作の『職原抄引事大全』（江戸時代初期）
• - 壺井義知による『職原抄弁疑私考』『職原抄通考』『職原抄輯考』（江戸時代初期）
• - 多田義俊の『職原抄弁講』（江戸時代初期）
• - 栗原信充の『職原抄私記』（江戸時代末期）
• - 小中村清矩による『標注職原抄補正』（明治時代）
• - 春山頼母の『職原抄講義』（明治時代）

これらの注釈書は、原典を理解する手助けとなっています。また、原文を知るための資料も豊富にあり、国立国会図書館のデジタルコレクションや各大学の図書館でアクセス可能です。

『職原抄』は、官制や有職故実に関する学問の重要な一端を担っている文献であり、今後もその研究が続くことでしょう。

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