野点

野点（のだて）とは

野点とは、屋外で湯を沸かし、茶を点てる（たてる）茶会のことです。別名として、ふすべ茶、野がけ、柴火とも呼ばれます。特に茶道においては、戸外で茶を点てる行為を指しますが、屋内での茶道のように細かい作法にとらわれず、より気軽に楽しめるのが特徴です。

概要

野点は、主に春や秋の穏やかな気候の良い時期に行われます。地面に毛氈（もうせん）と呼ばれるマットを敷き、その上で茶を楽しみます。茶菓子が添えられることもありますが、あくまで茶が主体です。食事を主体とする場合は「野がけ（のがけ）」と呼ばれ、ピクニックに似た行楽の形式です。茶道では抹茶を使うことが多いですが、広義には緑茶や煎茶を屋外で楽しむことも含まれます。

野点は、四季の移ろいを感じながら自然を楽しむことを目的としています。日本では古くから、自然の中で変化する景色を愛でる文化があり、野点もその一つとして受け継がれてきました。俳句や和歌を詠んだり、他の行楽と合わせて楽しむこともあります。

野点の起源は、戦国時代の武将が遠征中に、あるいは江戸時代の大名が狩りの休憩中に茶を楽しんだことにあるとされています。屋外で湯を沸かし茶を点てる行為は、屋内での茶会では味わえない特別な体験をもたらします。特に、燃料を野に求めて湯を沸かした場合、煙の香りがお湯に移り、独特の風味を醸し出すことがあります。これを「ふすべ」と呼び、この風味の茶を「ふすべ茶」と呼びます。

歴史的な事例

箱崎茶会（天正15年6月14日）

豊臣秀吉が九州平定後、博多の町割りを行った際に、箱崎の松林で千利休が茶を点てた茶会です。松の枝に雲龍の小釜を吊るし、松葉を燃料に湯を沸かしました。立ち上る煙の香りが茶会に風情を添えたと伝えられています。この茶会を記念して、利休は筥崎宮に灯籠を奉納しました。

北野大茶湯（天正15年10月1日）

豊臣秀吉が北野天満宮で行った大規模な茶会です。経堂の側に茶屋を設け、松ぼっくりを燃やして湯を沸かし、50人ほどの法師が麦こがしを点てて振る舞いました。秀吉はこの茶会を大変賞賛したとされています。

ただし、「ふすべ茶」については、必ずしも上等な茶とは限らないという見解もあります。岩波文庫版『南方録』の注釈では、「ものを燻べるような粗末な茶」とされています。

近代以降の野点

近代化以降も、野点は屋外での行楽として親しまれています。花見や紅葉狩りなどの際に、庭園や自然の中で気軽に楽しむことができます。個人で趣味として楽しむ人も多く、場所も庭先から完全に野外まで、様々です。

道具

野点で抹茶を点てる場合は、基本的には茶碗と茶筅があれば十分です。湯を沸かす鍋釜があれば、手軽に楽しめます。現代では、キャンプ用の調理器具や携帯用の熱源、保温性の高い魔法瓶などもあり、より簡便に野点を楽しむことができます。

本格的に行う場合は、茶釜を移動式のかまどに載せて湯を沸かします。煎茶道の場合は、提籃（ていらん）と呼ばれる籠に道具一式を収納し、ボーフラや涼炉などを組み合わせて茶を淹れます。

精神性

茶道における野点には、特に決まった作法はありません。しかし、その自由さゆえに、真に趣のある茶会にするのは難しいとされています。茶道の指南書である『南方録』では、「定法なきがゆえに定法あり」と示されています。自然の景観に心を奪われすぎたり、雑談に興じてしまったりすることは、野点の趣旨にそぐわないとされています。野点を行うにあたっては、場所選びとして「清々しい場所」を選ぶこと、茶道具は清潔に保つことが重要とされています。

上質な道具を使うことを良しとしつつも、その場に応じて執り行うべきだとされています。自然に振る舞うには、俗なところが無く、悟りの境地に達した者でなければ難しいとされ、未熟な者はそうした脱俗の境地にいる人を模倣すべきだとされています。

関連情報

• - 関連項目

- 野外生活
- ピクニック
- 野点傘
- 涼炉（中国を発祥とする簡易で使い捨ての炉）
- 貫（自適の境地に至った戦国時代後期から安土桃山時代の名人。北野大茶湯の野点で秀吉を感銘させた）

もう一度検索