金港堂

金港堂とは

金港堂は、明治時代に創業された日本の出版社です。創業者である原亮三郎は、1875年に横浜で金港堂を設立しました。社名は、横浜の別称である「金港」に由来しています。創業当初は、教科書を中心とした教育関連の出版物を手掛けていました。

発展と文芸分野への進出

1876年に東京日本橋へ移転した金港堂は、教科書出版で確固たる地位を築き、教育界でその名を知られるようになりました。その後、1887年には言文一致で書かれた長編小説『浮雲』を刊行し、文芸分野への進出を果たします。硯友社から作家の山田美妙を引き抜き、1888年には文芸誌『都之花』を創刊するなど、文芸出版にも力を入れ始めました。

1892年には『少年界』や『少女界』など、七つの雑誌を相次いで創刊し、出版界で大きな存在感を放ちました。この時期は金港堂の黄金時代であり、多くの読者に親しまれる雑誌や書籍を世に送り出しました。

美術との融合

金港堂の特徴の一つとして、木版口絵の美しさも挙げられます。当時、木版口絵を付ける書籍は多くはありませんでしたが、金港堂は梶田半古、鏑木清方、小林永濯、武内桂舟、寺崎広業、富岡永洗、中野春郊、松本楓湖、三島蕉窓、宮川春汀といった著名な画家たちに口絵制作を依頼しました。これらの美しい口絵は、金港堂の出版物の魅力を一層引き立てました。

また、幸田露伴のデビュー作である『露団々』も、金港堂が原稿を買い取って出版された作品の一つです。

組織変更と教科書疑獄事件

1892年には、資本金50万円で金港堂書籍株式会社として組織変更を行いました。しかし、1902年に教科書疑獄事件が発生し、国内の教科書事業は衰退に向かいます。この事件は、金港堂の経営に大きな打撃を与えました。

中国への進出と合弁解消

金港堂は、1903年に中国の商務印書館と合弁事業を開始します。日本から教育関係者や編集者を派遣し、教科書編集会議を経て『最新国文教科書』を刊行しました。しかし、辛亥革命後の社会情勢の不安定化や、商務印書館の社員が独立して中華書局を設立したことなどから、1914年1月に合弁は解消されました。

合弁解消時、金港堂には原亮三郎社長をはじめとする17名の日本人出資者がいました。合弁解消後も、金港堂の編集者や印刷管理者は商務印書館に残り、同社は金港堂の海外総代理店として日本語出版物を継続しました。

金港堂の主な出版物

山田美妙 『夏木立』 (1890年)
山田美妙 『鉄道安内記』 (1890年)

関連人物・企業

原亮三郎：金港堂の創業者。
山田美妙：小説家。金港堂から『夏木立』などを出版。
幸田露伴：小説家。デビュー作『露団々』の原稿を金港堂が買い取った。
東京書籍：金港堂創業者の長男・原亮一郎が初代会長を務めた。
* 商務印書館：1903年から1914年まで金港堂と合弁事業を行った。

まとめ

金港堂は、明治時代に教科書出版で発展し、文芸誌や小説の刊行にも力を入れた出版社です。最盛期には七大雑誌を創刊し、多くの画家が木版口絵を手掛けました。教科書疑獄事件や海外展開を経て、その歴史に幕を閉じましたが、日本の出版文化に大きな足跡を残しました。その出版物は、明治期の文化や芸術を今に伝える貴重な資料となっています。

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