鉄甲船

鉄甲船：戦国時代の鉄の軍船

鉄甲船とは、戦国時代から江戸時代初期にかけて存在した、大型の安宅[[船]]に鉄板を張った軍船のことです。特に織田信長や豊臣秀吉が建造を命じたものが知られていますが、その詳細については多くの謎に包まれています。

織田信長の鉄甲船

建造の背景

織田信長は、室町幕府将軍足利義昭を擁して上洛を果たした後も、三好氏や本願寺勢力との対立を続けていました。特に本願寺は石山本願寺を拠点に徹底抗戦し、毛利氏も海上から本願寺を支援していました。天正4年（1576年）の第一次木津川口の戦いで、信長は毛利水軍に大敗を喫しました。この敗戦を機に、信長は九鬼嘉隆に命じて鉄甲船の建造に着手したとされています。

木津川口の海戦とその後

『信長公記』によると、九鬼嘉隆が建造した6隻の黒い大船と、滝川一益が建造した白い大船1隻が、天正6年（1578年）に木津川口で毛利水軍と戦い、勝利を収めたとされています（第二次木津川口の戦い）。この戦いで、九鬼嘉隆が新造船を用い、大砲で毛利水軍を打ち破ったことは事実です。しかし、その船がどのような構造をしていたのか、特に鉄板による装甲があったのかについては議論が続いています。

この戦いの後、鉄甲船がどうなったかは不明です。本能寺の変後、大阪湾に放置されたという説や、解体されて小型船に作り直されたという説があります。また、九鬼嘉隆が所有していたとされる「大宮丸」や「日本丸」が、後の海戦で失われた可能性も指摘されています。

鉄甲船の要目

鉄甲船に関する記述は、『信長公記』や『多聞院日記』、『フロイス日本史』などに散見されますが、詳細については未だに不明な点が多く、定説は確立していません。

寸法

『多聞院日記』には、長さ12～13間（約21.8m～23.6m）、幅7間（約12.7m）と記録されています。しかし、同時期に建造されたとされる丹羽長秀の大船は、長さ30間（約55m）もあったとされており、鉄甲船の寸法については疑問が残ります。また、『多聞院日記』の記述は、船体幅ではなく、艪床を含めた最大幅を指している可能性も指摘されています。

装甲

鉄甲船の最大の特徴とされる鉄板による装甲ですが、これを裏付ける同時代の史料は、『多聞院日記』の伝聞記述のみです。オルガンチノの報告書では、鉄甲船を「ポルトガルの船に似ている」と評するのみで、装甲については言及していません。また、『信長公記』にも装甲に関する記述はありません。

乗員

『多聞院日記』には「人数五千人程のる」とありますが、上記の寸法からするとこの人数を乗せることは難しいと考えられます。一方で、この人数は九鬼嘉隆が建造した6隻の合計人数であり、1隻当たり約800人強であるという説もあります。

動力

鉄甲船の動力については記録が残っていませんが、通常の安宅[[船]]と同じく、艪と起倒式の木綿帆が用いられていたと推測されています。

豊臣秀吉の鉄甲船

信長の鉄甲船については謎が多いですが、豊臣秀吉が文禄・慶長の役時に鉄の装甲を持つ大型船を建造したことは、『フロイス日本史』に明記されています。また、『家忠日記』にも、鉄板で覆われた船についての記述が見られます。

その他の鉄甲船

慶長18年（1613年）には、イギリス使節団のジョン・セーリスが、鉄で覆われた大型船を目撃した記録があります。また、寛永12年（1635年）には、徳川秀忠が向井忠勝に命じて建造させた「安宅丸」が、船体全体に防火・防食を目的とした銅板貼りを施されていたことが、幕府の公式記録から確認されています。

鉄甲船の謎

石山合戦の転機となった第二次木津川口の戦いで、鉄甲船が毛利水軍を破ったという伝説的な戦果は、真偽不明な点が多く残されています。その寸法、鉄による装甲の有無、最期など、様々な点で謎に包まれた存在です。

結論

鉄甲船は、戦国時代の海戦において重要な役割を果たした軍船ですが、その構造や活躍については、まだ多くの謎が残されています。今後の研究によって、鉄甲船の実像が明らかになることが期待されます。

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