龍涎香

龍涎香（りゅうぜんこう）とは

龍涎香、またはアンバーグリス（英: Ambergris）は、ベゾアールの一種であり、マッコウクジラの腸内で生成される香料の一つです。初めは海の香りや糞便の匂いを持っていますが、熟成が進むと甘みや土の香りに変化し、消毒用アルコールに似た独特の香りを発します。

概要

龍涎香は、灰色、琥珀色、黒色など多彩な色合いを持ち、一般に蝋状の固体として存在します。マッコウクジラが摂取したタコやイカの硬い嘴（顎板）が含まれていることが多く、消化未了な食物が消化分泌物によって結石化し、腸内で形成されると考えられています。その生理的メカニズムについては、現在も不明な点が多いです。

龍涎香は水よりも軽く、マッコウクジラから排泄された後、海面に浮かび上がり、海岸に漂着します。商業捕鯨が行われる以前は、こうした偶然でしか入手できなかったため、非常に貴重な素材とされました。商業捕鯨の時代には鯨の解体時に得られ、取引は行われていましたが、1986年以降は再び自然に漂着したもののみが入手されるようになりました。そのため、現在の龍涎香は希少性が高く、その大きさや品質により、取引価格は数千万円から数億円に達することもあります。

日本では有限会社アンバーグリスジャパンが唯一の取り扱い専門会社として、香水やオイル、キャンディ等の開発を手がけ、文化の普及や環境保護活動にも積極的に取り組んでいます。最近では、2018年に沖縄県内及び鹿児島県奄美大島で龍涎香が発見されるなど、再び注目を集めています。

歴史

「ambergris」という英語の語源は、古フランス語の「ambre gris」（灰色の琥珀）に由来します。龍涎香が初めて香料として使用されたのは、7世紀ごろのアラビアとされており、中国では「龍のよだれが固まったもの」として利用されてきました。日本においても、室町時代の文書にその言葉が登場し、この時期に伝来したと考えられています。

香料としては、エタノールに溶解させたチンキとして使われ、香水の香りを持続させる効果を持ちます。また、漢方薬としても神経や心臓に効能があることから、多様な用途があったことがわかります。

成分

龍涎香の主成分は、ステロイドの一種であるコプロスタノール及びトリテルペンの一種であるアンブレインであり、これらの成分が香料としての特性を生み出します。特にアンブレインの含有量が高いものほど、高品質とされ、龍涎香が海面で浮遊する間に酸化分解されて新たな香りを生み出すことが知られています。

さらに、アンブレインが持つ薬効も注目されており、様々な香りをもたらす化合物として、商標名で「Ambrox」や「Ambrinol」として知られるものもあります。これらは合成香料として製造され、身体にやさしい香料の代替品として利用されています。

文化

ハーマン・メルヴィルの小説『白鯨』第92章では、マッコウクジラの解体による龍涎香の入手過程が詳細に描かれており、文学における重要なテーマとなっています。また、中国の明代には、龍涎香に関する興味深い説明が記されており、特に付加価値の高い材料として位置付けられています。こうした文化的背景は、龍涎香が単なる香料以上の価値を持つことを示しています。

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