いすゞ・ウィザード

いすゞ・ウィザードは、いすゞ自動車がかつて製造・販売していた5ドアタイプのSUVです。同社の「ビッグホーン」とは異なり、ピックアップトラックを基にしたような、よりSUV本来のタフな雰囲気を纏うスタイルを特徴としていました。このモデルは、いすゞが日本国内向けに自社で開発・生産した乗用車としては、最後に市場に送り出された存在でもあります。

概要と開発経緯

ウィザードの歴史は、1995年（平成7年）に「ミュー」の5ドア仕様として「ミュー・ウィザード」の名で始まったことに遡ります。その後、1998年（平成10年）に実施された全面改良を機に、「ミュー」のサブネームが外れ、「ウィザード」として独立した車種となりました。

初代モデルの原型は、1990年（平成2年）に北米市場向けに投入された5ドアSUV「ロデオ」にあります。ロデオはアメリカのSIA（Subaru-Isuzu Automotive, Inc.）で生産されていました。当初、日本への導入は計画されていませんでしたが、1990年代における国内SUV市場の急速な拡大を受け、いすゞの低迷していた乗用車販売を立て直すため、新たなSUV投入の機運が高まります。当時の国内市場では、他社モデルが5ドア・ロングボディで人気を集めており、特に「5ドア、ディーゼルエンジン、AT」の組み合わせが重視されていました。

このような背景から、北米ロデオの日本導入が検討されました。しかし、市場投入を急ぐ必要があったこと、そして国内の主流であるディーゼルエンジンの搭載や、ライバル車に劣らない快適な乗り心地を実現するためのリアサスペンション形式の変更（リーフリジッドから4リンクリジッド＋コイルスプリングへ）が必要となったため、北米仕様をそのまま輸入するのではなく、ビッグホーンとの部品共有を図りつつ、国内の藤沢工場で生産されることになりました。この迅速な開発・生産体制は、当時の社長直轄プロジェクトである「ZIPカープロジェクト」によって実現されました。同プロジェクトからは、後にエルフUTやビークロスも誕生しています。

初代 UCS69GW型（1995年 - 1998年）

日本仕様の初代ミュー・ウィザードは、北米ロデオをベースとしつつも、国内市場に合わせた改良が施されました。主な変更点は以下の通りです。

エンジン: トルクフルで燃費に優れる、国内人気の高かったディーゼルエンジン、4JG1型（後に4JG2型）が搭載されました。
リアサスペンション: 当時ワゴンモデルには既に不向きとされていたリーフスプリング式から、乗用車的な乗り心地を目指した4リンク＋コイルスプリング式に変更されました。
* 生産拠点: 国内のいすゞ藤沢工場で生産されました。

外観は国内版ピックアップトラックのロデオに近いデザインでしたが、フロント周りには北米ロデオの名残も見られました。排出ガス規制への対応も考慮され、3.1Lの4JG2型エンジンが採用されています。シャシーの大部分はビッグホーン・ロングからの流用で、内装の一部にはミューやビークロスとの共用も見られます。トランスミッションは4速ATのみの設定でした。

1997年（平成9年）春にはマイナーチェンジが実施され、エンジンの電子制御化による性能向上や、アルミホイールのデザイン変更などが行われました。

海外においては、北米では「ロデオ」、欧州ではオペル/ボクスホールの「フロンテラ」（主に5ドア）、タイでは2WDが「カメオ」、4WDが「ベガ」として販売されていました。北米市場では、ホンダにもOEM供給され「ホンダ・パスポート」としても販売されました。

2代目 UER25FW/UES25FW/UES73FW型 (1998年 - 2005年)

1998年（平成10年）5月、フルモデルチェンジを経て2代目「ウィザード」が登場。これにより、ミューから完全に独立した車種となりました。生産は、初代ロデオと同様にアメリカのSIAで行われたため、日本では輸入車として扱われました。

プラットフォームは、先代がビッグホーンと共通であったのに対し、2代目では専用設計のUES型シャーシが開発されました。このシャーシは、ロングボディだけでなく将来的なピックアップトラックへの展開も視野に入れ、3分割フレーム構造を採用することで、ボディ長や用途に応じた強度調整が容易になるよう工夫されていました。モノコック構造の検討段階で得られた技術も活かされ、従来比100kg以上の軽量化も実現しています。サスペンションは、フロントが引き続きダブルウィッシュボーン＋トーションバースプリング、リアは5リンクリジッド＋コイルスプリングに変更されました。これは、燃料タンクやスペアタイヤの配置変更に対応したものです。操縦性を向上させるため、ステアリングギアボックスもボール・ナット式からラック・アンド・ピニオン式に改められています。

エンジンも一新され、ガソリンエンジンにはビークロス用を改良した3.2L V6の6VD1型（215PS）、ディーゼルエンジンには新開発の3.0Lコモンレール式直噴ターボ「4JX1型」（145PS、インタークーラーなし）が搭載されました。4JX1型は排気量こそ先代より小さいものの、コモンレール化により出力が向上し、燃費や環境性能も改善されました。車両重量がビッグホーンより軽量だったため、十分な走行性能を発揮しました。

スタイリングは、「質実恒健」をコンセプトに、欧州のデザインスタジオといすゞ藤沢工場の競作で進められました。チーフデザイナーは3代目ジェミニを手がけた中村史郎氏です。

登場当初のグレード構成は、ガソリン車のTYPE-X（ATのみ）、ディーゼル車のTYPE-X（AT/MT）、TYPE-S（AT）でした。後に2WD仕様も追加されています。

2000年（平成12年）5月には大規模なマイナーチェンジを実施。内外装のデザインが大幅に見直され、特にフロントマスクは北米市場で好まれるタフなイメージを強調しました。サスペンションセッティングも見直され、欧州仕様に近い味付けとなることで操縦性が向上。上級グレードには電子制御セミアクティブサスペンションや、TOD（トルクオンデマンド）と呼ばれる電子制御4WDシステムも採用され、走行性能や快適性が高められました。グレード名称も変更され、LSEやLSといった上級グレードが新設されました。

2001年（平成13年）5月にも小変更が行われ、スピーカー数の増加やUVカットガラスの装備などが実施されました。

しかし、いすゞ自動車がSUV事業から撤退する方針を固めたことにより、2002年 9月に国内向けの生産が終了。同年12月をもって日本国内での販売も終了しました。

海外では生産が継続され、北米向けロデオは2004年まで製造、2005年までに販売終了。欧州向けフロンテラ（2代目）はイギリスIBCビークルズで引き続き生産され、2004年まで製造されました。オセアニア向けホールデン・フロンテラ（2代目）はアメリカSIAからの輸入となり、2003年まで製造、2004年半ばまでに販売を終了しました。

車名の由来

英語で「魔法使い」を意味します。

いすゞの乗用車ラインナップにおいて重要な位置を占めたウィザードは、SUVとしての実用性と、ピックアップトラック由来の頑丈さを兼ね備えたモデルとして、いすゞの歴史にその名を刻んでいます。

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