いすゞ・ステーツマンデビル

いすゞ・ステーツマン・デ・ビル：成功者たちの選択と時代の波

1973年から1975年という短い期間、日本の高級車市場にその姿を現した「いすゞ・ステーツマン・デ・ビル」。この車は、オーストラリアのホールデン社が製造したステーツマンをいすゞ自動車が輸入販売したモデルです。キャッチコピーは「成功する男が、目をとめる。成功する男が、乗り込む。成功する男が、操る。成功する男が、うなずく。」と、まさに成功者を象徴するような言葉で彩られていました。

時代の背景と誕生の経緯

ステーツマン・デ・ビルの登場は、日本の自動車業界と経済状況が大きく変動した時期と重なります。1971年には、いすゞ自動車はゼネラルモーターズ（GM）と資本提携。GMとの協業による車種ラインナップ強化の一環として、この輸入車が計画されました。当時、日本の高級車市場はトヨタ・センチュリーや日産・プレジデントが独占状態にありましたが、高度経済成長による富裕層の拡大を背景に、市場の拡大が見込まれていました。いすゞ、三菱、東洋工業（現マツダ）といったメーカーが、この市場参入を狙ったのです。

いすゞにとって、ステーツマン・デ・ビルは1967年のベレル以来、7年ぶりのハイオーナーカー市場への挑戦でした。しかし、トヨタや日産のような独自開発力を持っていなかったいすゞは、GMとの関係を活用し、ホールデン製の車を輸入することにしたのです。日本の法規に適合させるため、ドアミラーをフェンダーミラーに変更するなど、最小限の改造を加えています。価格は348万円と、決して安くはありませんでした。イメージキャラクターには、あのジャック・ニクラウスを起用するなど、高級車としての地位を確立しようとする意気込みが感じられます。

短命に終わった高級車

しかし、ステーツマン・デ・ビルの販売期間はわずか2年間に終わってしまいました。その背景には、1973年のオイルショックによるガソリン価格の高騰と景気後退、そして厳しくなる排気ガス規制が大きく影響しています。高級車市場そのものが縮小傾向となり、ステーツマン・デ・ビルも例外ではありませんでした。結果として、販売台数は246台と、非常に少ない数にとどまりました。

そして今

ステーツマン・デ・ビルは、成功を象徴する車として意気込んで発売されましたが、オイルショックと景気後退という時代の大きな変化の前に、その短い生涯を終えました。希少性から、コレクターズアイテムとして高い価値を持つ一台となっています。この車は、高度経済成長期からオイルショックへの転換期における日本の自動車産業、そして高級車市場の歴史を語る上で、重要な証言者と言えるでしょう。246台の販売台数は、その時代の激変を象徴しているのかもしれません。日本の自動車史において、独特の位置を占める存在と言えるでしょう。ステーツマン・デ・ビルの存在は、日本の経済成長と社会変化を反映する貴重な歴史的遺産であり、自動車史研究においても重要な資料となっています。

関連車種

ホールデン・ステーツマン
トヨタ・センチュリー
日産・プレジデント
マツダ・ロードペーサー
GM大宇・ベリタス（ステーツマンの韓国版）
三菱・クライスラー・シリーズ
いすゞ・ベレル
いすゞ・フローリアン
* いすゞ・ジェミニ

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