いろは (鉄道車両)

いろは

「いろは」は、東日本旅客鉄道（JR東日本）が2018年4月から2022年3月にかけて運行した、観光利用を主な目的とした電車です。同社の展開する「のってたのしい列車」シリーズを構成する車両の一つでした。

概要

この車両は、2018年4月1日から6月30日まで開催された「本物の出会い 栃木」デスティネーションキャンペーンに合わせて導入されました。日光線を訪れる観光客に、より快適で楽しい移動時間を提供することを目的としています。

愛称である「いろは」は、日光を代表する景勝地の一つである「いろは坂」と、物事の基礎や始まりを意味する「物事のいろは」という言葉を組み合わせて名付けられました。これは、日光への旅の起点となる日光線の車内で、乗客に日光の多様な魅力を感じ取ってほしいという願いが込められています。

その特徴的なロゴマークは、「いろは」の頭文字である平仮名の「い」をモチーフとしています。いろは坂のカーブの数にちなんだ48色で鮮やかに彩られ、背景には日光線の路線カラーであるクラシックルビーブラウンが配されています。全体の形状は、「いろは」のアルファベット表記の頭文字「I」と、鉄道のレール断面を連想させるフォルムが組み合わされたデザインです。

「いろは」は、2022年3月12日のダイヤ改正において、東北本線および日光線で活躍していた205系電車がE131系電車のワンマン運転列車に置き換えられたことに伴い、定期運行を終了しました。

車両

使用された車両は、日光線で運用されていた小山車両センター所属の205系600番台（Y3編成）を、観光列車向けに再度改造したものです。この編成は、かつて京葉線で運用されていた車両（元京葉車両センター所属ケヨ4編成）で、前面デザインに東京ディズニーランドをイメージした特徴がありました。

車体は、乗降扉が片側2扉のみに減らされました。外装デザインは、日光線沿線の豊かな自然や魅力的な景観を取り入れつつ、日光エリアの持つ「レトロ」な雰囲気を意識したものです。側面に配されたイラストは、日光エリアの自然（キスゲ、華厳滝、男体山、中禅寺湖）や、日光の社寺建築に見られる彫刻（龍、鳳凰、唐獅子など）をモチーフとしています。これらのモチーフは、黒色、黄金色、灰桜色といった日本の伝統的な色使いで描かれ、訪日外国人観光客も意識したジャポネスク風かつモダンなデザインとなっています。

車内は木目調で統一され、落ち着いた空間が演出されています。座席は、シートモケットに日光線のイメージカラーであるクラシックルビーブラウンを基調とした配色の大型クロスシートが採用されました。つり革は木製のものに交換されています（優先席付近を除く）。また、大型荷物置き場や自由に利用できるフリースペースが設置され、観光客の利便性が向上しました。客室内の照明もLED化されています。

ドア上部には、多言語表示に対応した新しい案内表示器が設置されました。バリアフリー対応も強化され、車いすスペースは1箇所から2箇所に増やされています。さらに、Free Wi-Fiが導入され、乗客が気軽に観光情報などを入手できる環境が整えられました。

運用

「いろは」は、2018年4月1日に宇都宮駅と日光駅の間で運行された臨時快速「誕生いろは日光号」でデビューしました。運行開始に先立ち、同年3月には鉄道博物館と日光駅で車両展示会が開催されています。

定期列車としては、当初は朝に宇都宮〜鹿沼間で2往復、日中時間帯に宇都宮〜日光間で3往復、夕方以降に宇都宮〜鹿沼間で2往復という形で運行されました。その後、2021年12月時点では、日中時間帯の宇都宮〜日光間の運行が5往復に増便されていました。観光需要が高まる特定の時期には、栃木県内を中心とした他の路線で臨時列車として運転されることもありました。

最終運行は、2022年3月26日に大宮駅〜日光駅間で運転された団体臨時列車「さよならいろは日光号」でした。この運行をもって、「いろは」としての営業運転を終了しました。

営業運転終了後、車両は2023年3月28日に長野総合車両センターへ回送され、その後廃車・解体されたため、現在は現存していません。

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