観光列車

観光列車とは

観光列車とは、鉄道事業者が観光を主な目的として運行する列車、およびそのために特別に設計・改造された鉄道車両のことです。単なる移動手段としてだけでなく、乗車そのものを楽しむことを目的とした、様々な工夫が凝らされています。

観光列車の定義

「観光列車」という言葉の定義は、人によってやや異なります。

JTB総合研究所の定義: 内外装に趣向を凝らし、食事などを楽しみながら旅行できる、乗ること自体が目的となる列車。
新納克広（奈良県立大学教授）の定義: 観光客が利用する列車全般。かつては車両そのものが観光資源であったものが、近年では観光客向けサービス全体へと意味合いが変化している。
藤田知也（北海学園大学講師）の定義: 上記を踏まえ、以下の4つの要素を満たすものを観光列車と定義。
1. 主な利用者が観光客であること
2. 観光資源を内包していること
3. 内外装のデザインが特徴的であること
4. 固有の愛称を持ち、専用車両で運行していること

また、ジョイフルトレインという言葉もありますが、これは団体旅行のサービスの一環として運行されるものが多く、観光列車とは趣旨が異なります。ただし、観光列車が団体向けに運用されることもあり、両者の区別は曖昧な部分もあります。

この記事では、事業者が「観光列車」や類似の名称を使用しているものを広く取り上げます。

観光列車の歴史

現在の意味での「観光列車」という言葉を初めて使ったのは、1990年にJR東日本が登場させた「ノスタルジックビュートレイン」です。この列車は、それまでのジョイフルトレインとは異なり、特定の路線（五能線）での運行に特化していました。この成功を受けて、「リゾートしらかみ」などの後継列車が登場し、2000年代以降、他のJR各社や地方私鉄にも同様の列車が広がりました。

2010年代には、利用客の増加や沿線観光地の振興を目的に、地方私鉄でも観光列車が相次いで誕生しました。また、JRでは全車グリーン車の豪華な列車が登場するなど、新たな方向性も生まれています。

JR各社の観光列車

JR各社では、それぞれ特色のある観光列車を運行しています。特に、JR北海道とJR東海以外の4社は、ポータルサイトを設けて積極的に情報提供を行っています。また、JR東日本とJR九州では、独自のカテゴリー分けを行っている点も特徴です。

北海道旅客鉄道（JR北海道）

JR北海道では、観光列車の呼称をしばしば用いるものの、具体的な一覧は2020年現在公表されていません。過去の発表では、使用車両を「特急気動車タイプ」「一般気動車タイプ」「その他」の3種類に分類していました。

特急気動車タイプ: 「ノースレインボーエクスプレス」、「はまなす編成」、「ラベンダー編成」など。
一般気動車タイプ: キハ40形「北海道の恵み」「山紫水明」、キハ54形「流氷物語号」など。
その他: ノロッコ号、SL列車など。

東日本旅客鉄道（JR東日本）

JR東日本では、「TRAIN SUITE 四季島」と団体用車両を除いた列車群を「のってたのしい列車」と呼んでいます。これは実質的に「観光列車」と同義と捉えられています。

現在運行中の主な「のってたのしい列車」は以下の通りです。

リゾートしらかみ: 五能線を走る人気列車。「青池」「橅」「くまげら」の3編成があります。
SLばんえつ物語: 磐越西線を走る蒸気機関車牽引列車。グリーン車も連結しています。
リゾートビューふるさと: 長野地区を走る列車。
POKÉMON with YOU トレイン: 大船渡線を走る、ポケモンをテーマにした列車。
TOHOKU EMOTION: 八戸線を走る、食事を楽しめる団体専用列車。
*越乃ShuKura*: 新潟地区を走る、日本酒が楽しめる列車。
おいこっと: 飯山線を走る、懐かしい雰囲気の列車。
HIGH RAIL 1375: 小海線を走る、星空観賞もできる列車。
SLぐんま みなかみ: 上越線を走る蒸気機関車牽引列車。
SLぐんま よこかわ: 信越本線を走る蒸気機関車牽引列車。
BOSO BICYCLE BASE: 房総地区を走る、自転車を積める列車。
海里: 羽越本線を走る、美しい日本海の眺めを楽しめる列車。
ひなび（陽旅）: 青森県・岩手県内を走る、グリーン車を連結した列車。
SATONO: 宮城県・福島県・山形県内を走る、グリーン車を連結した列車。

東海旅客鉄道（JR東海）

JR東海では、秘境駅巡りなど、乗車自体が目的となる臨時列車を「観光列車」と呼んでいます。専用の観光車両は保有しておらず、「しなの」「ふじかわ」「伊那路」などの定期特急列車用車両で運行されています。

西日本旅客鉄道（JR西日本）

JR西日本では、以下の列車を「観光列車」として位置づけています。

SLやまぐち号: 山口線を走る蒸気機関車牽引列車。
花嫁のれん: 七尾線を走る、和の雰囲気が魅力の列車。
ベル・モンターニュ・エ・メール（べるもんた）: 氷見線・城端線を走る、景色を楽しめる列車。
ラ・マル・ド・ボァ: 瀬戸内海沿岸を走る、サイクリングも楽しめる列車。
○○のはなし: 山陰本線を走る、沿線の物語をテーマにした列車。
あめつち: 山陰本線を走る、全車グリーン車の豪華な列車。
うみやまむすび: 城崎温泉駅を中心に走る、窓向きカウンター席が特徴の列車。
etSETOra: 呉線を走る、瀬戸内海の眺めを楽しめる列車。
SAKU美SAKU楽: 津山線を走る、岡山県北の魅力を発信する列車。
はなあかり: 西日本エリア各地を走る、全車グリーン車の豪華な列車。

四国旅客鉄道（JR四国）

JR四国では、以下の列車を「観光列車」としています。

アンパンマン列車: 四国各地を走る、子供に人気の列車。
海洋堂ホビートレイン: 予土線を走る、フィギュアを展示した列車。
しまんトロッコ: 予土線を走る、トロッコ列車。
伊予灘ものがたり: 予讃線を走る、食事も楽しめる豪華列車。
鉄道ホビートレイン: 予土線を走る、新幹線をモチーフにした列車。
四国まんなか千年ものがたり: 土讃線を走る、美しい景色を堪能できる列車。
藍よしのがわトロッコ: 徳島線を走る、オープンデッキが特徴の列車。
志国土佐 時代の夜明けのものがたり: 土讃線を走る、土佐の歴史をテーマにした列車。

九州旅客鉄道（JR九州）

JR九州では、観光列車を「D&S列車」と呼んでいます。主な列車は以下の通りです。

ゆふいんの森: 久大本線を走る、リゾート感あふれる列車。
海幸山幸: 日南線を走る、海と山の景色を楽しめる列車。
あそぼーい!: 豊肥本線を走る、子供向けの楽しい列車。
指宿のたまて箱: 指宿枕崎線を走る、ユニークなデザインの列車。
A列車で行こう: 三角線を走る、ジャズが流れるおしゃれな列車。
或る列車: 九州各地を走る、豪華な食事を楽しめる列車。
かわせみ やませみ: 肥薩線を走る、美しい渓流沿いを走る列車。
36ぷらす3: 九州各地を走る、個室席が充実した豪華列車。
ふたつ星4047: 長崎本線・大村線を走る、2つのルートを楽しめる列車。
かんぱち・いちろく: 久大本線を走る、食事を楽しめる団体専用列車。

その他の事業者の観光列車

JR以外にも、多くの鉄道事業者が観光列車を運行しています。地域ごとに主な列車を以下にまとめます。

道南いさりび鉄道: 「ながまれ号」「ながまれ海峡号」
秋田内陸縦貫鉄道: 「笑EMI」「秋田縄文号」
西武鉄道: 「西武 旅するレストラン 52席の至福」
しなの鉄道: 「ろくもん」「軽井沢リゾート号」
えちごトキめき鉄道: 「えちごトキめきリゾート雪月花」「観光急行」
富山地方鉄道: 「アルプスエキスプレス」「ダブルデッカーエキスプレス」「レトロ電車」
あいの風とやま鉄道: 「一万三千尺物語」
のと鉄道: 「のと里山里海号」
近畿日本鉄道: 「しまかぜ」「青の交響曲」「あをによし」
長良川鉄道: 「ながら」
樽見鉄道: 「ねおがわ号」
京都丹後鉄道: 「丹後あかまつ号」「丹後あおまつ号」「丹後くろまつ号」
阪急電鉄: 「京とれいん 雅洛」
南海電気鉄道: 「天空」「めでたいでんしゃ」
若桜鉄道: 「昭和」「八頭」「若桜」
岡山電気軌道: 「おかでんチャギントン」
土佐くろしお鉄道: 「やたろう」「しんたろう」
西日本鉄道: 「旅人」「水都」「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」
平成筑豊鉄道: 「ことこと列車」
肥薩おれんじ鉄道: 「おれんじ食堂」

過去の観光列車

かつて運行されていた観光列車の中には、車両の老朽化や利用客の減少により運行を終了したものもあります。主なものを以下に示します。

JR東日本: 「ノスタルジックビュートレイン」「きらきらうえつ」「きらきらみちのく」「うみねこ」「リゾートみのり」「リゾートあすなろ」「リゾートやまどり」「リゾートうみねこ」「SL銀河」「とれいゆ つばさ」「フルーティアふくしま」「伊豆クレイル」「現美新幹線」「いろは」
JR東海: 「トレイン117」
JR西日本: 「奥出雲おろち号」「きのくにシーサイド」「瀬戸内マリンビュー」「みすゞ潮彩」「天空の城 竹田城跡号」
JR九州: 「いさぶろう・しんぺい」「はやとの風」「SL人吉」
阪急電鉄: 「京とれいん」
* くま川鉄道: 「KUMA1・KUMA2」「田園シンフォニー」

まとめ

観光列車は、鉄道の旅をより豊かなものにする、魅力的な存在です。ぜひ、各地の観光列車に乗って、その魅力を体感してみてください。

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