こぐま座イプシロン星

こぐま座ε星

こぐま座ε星（こぐまざイプシロンせい、ε Ursae Minoris、略称 ε UMi）は、北天の星座であるこぐま座に位置する恒星系です。地球からはおよそ320光年離れていると推定されており、これは年周視差の測定に基づいています。見かけの明るさは平均で4.21等級と、肉眼で十分に捉えることができます。この星系の視線速度は約-10km/sと測定されており、これは太陽に対して近づいている方向へ運動していることを示しています。

発見と観測の歴史

こぐま座ε星が二つ以上の星からなる連星系であることは、19世紀末に天文学者キャンベルによって初めて明らかにされました。その後、プラスケットがこの連星の軌道に関する初期の要素を計算しました。20世紀の中頃には、この星系が互いを隠し合う「食」を起こしていることが発見されました。この発見を契機に観測が進み、より精密な軌道要素や、星系を構成する主星と伴星それぞれの物理的な性質が詳しく調べられるようになりました。

連星系の特徴

こぐま座ε星は、スペクトルを観測しても恒星のスペクトル線が一つしか見えない「単線分光連星」に分類されます。しかし、観測から二つの星が約39.5日の周期で互いの周りを公転していることが明らかになっています。両星は接触してはいませんが、非常に接近して公転している「非接触近接連星系」です。この連星系が食を起こすのは、星系の公転軌道面が地球から見て真横に近い向きになっているためです。推定される軌道傾斜角は約82.4度です。食は公転周期に伴って発生し、明るさが一時的に低下します。主星が伴星によって隠される主極小時には約0.04等級、伴星が主星によって隠される副極小時には約0.02等級ほど、星系全体の明るさが暗くなります。

星系を構成する主星は、スペクトル型がG5 IIIの黄色い巨星であると考えられています。一方、伴星はより温度の高いA8型からF0型の主系列星と予想されています。また、こぐま座ε星は、りょうけん座RS型変光星としても知られています。この種類の星は、表面の彩層活動が活発であることが特徴で、食による減光とは別に、恒星自身の活動によっても公転周期に合わせて明るさがわずかに変動します。

見かけ上の二重星

分光連星であるこぐま座ε星とは別に、単に二つの星が近くに見える「二重星」としても記録されています。この場合、ε星と組になっているのは、ε星から真北におよそ77秒角離れた位置にある12等級の暗い星です。この見かけ上の伴星は、チャールズ・パースによって発見されたと言われています。しかし、近年のガイア衛星による精密な年周視差や固有運動の測定データからは、こぐま座ε星とこの12等星は空間的に全く異なる位置にあり、物理的な関連性はないことが示されています。つまり、二つが隣り合って見えるのは偶然であり、単なる見かけ上の関係です。

中国における名称

中国の伝統的な天文学において、こぐま座ε星は「勾陳（こうちん）」と呼ばれる星官（星座に似たグループ）の一部を構成しています。この勾陳は、こぐま座のα星（北極星）、δ星、ζ星、そしてHD 5848（こぐま座2番星）、HD 217382といった星々と共に形成されるグループです。その中で、こぐま座ε星自身は「勾陳三」と呼ばれており、これは勾陳という星官における3番目の星という意味を持ちます。

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