こだま (人工衛星)

こだま（DRTS：Data Relay Test Satellite）

日本の宇宙開発において重要な役割を果たしたデータ中継衛星「こだま」は、宇宙航空研究開発機構（JAXA）によって開発され、2002年9月10日にH-IIAロケットで打ち上げられました。2017年8月5日までの約15年間、様々な宇宙ミッションにおいてその性能を発揮し続けました。

概要

こだまは静止軌道に位置し、インド洋上空の東経90.75度で運用されました。この衛星の主な目的は、低から中高度の衛星と地上局の間でデータ通信を中継することで、衛星通信の可能範囲を拡大することにありました。従来の2-4GHz帯（Sバンド）に加え、26-40GHz帯（Kaバンド）を使用することで、最大240Mbps以上のデータ通信速度を実現しました。2006年には、世界最高速度278Mbpsの衛星間通信実験にも成功しました。

運用中には、環境観測技術衛星「みどりII」、光通信技術衛星「きらり」、陸域観測技術衛星「だいち」など、多くのミッションにおいてデータ中継を行いました。また、欧州宇宙機関（ESA）の地球観測衛星「Envisat」との中継実験も行い、相互運用性を確認しました。特に「だいち」との連携においては顕著な成果があり、地上局が直接受信したデータの26倍を中継した実績があります。また、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」の衛星間通信システム（ICS）にも活用されました。

データ中継の課題と解決

低から中高度の衛星は、周回軌道が地上局上空を短時間で通過するため、的確なデータ送信が難しいという課題がありました。観測データを効果的に送信するために、地上局上空でデータを圧縮し、一度に送信する手法が取られることが多かったのですが、これには観測能力の制限が伴いました。

こだまの存在によって、静止軌道からは中高度衛星の約60%の軌道を見渡すことができ、データ中継を行うことでほぼリアルタイムでの通信が可能となりました。この結果、観測衛星の実質的な能力を数倍に拡大する効果があり、特に大規模災害の早期把握に大きく寄与しました。例えば、ALOSミッションにおいては、衛星が生成した画像データの99%を中継しました。

仕様と運用経過

こだまの打ち上げロケットはH-IIAで、打ち上げ質量は約2800kg、設計寿命は7年でした。様々な通信機器を有し、活発な運用を行っていました。

当初、2機体制で地球周辺の全領域のカバーを計画していましたが、財政的な理由から1機仕様に変更されました。これにより、こだまは単独での運用を余儀なくされました。

2017年8月5日に運用を終了し、静止軌道を離脱しました。バックアップとして、NASAのデータ中継衛星TDRSが使用できる準備が進められました。後継衛星の計画もありますが、今後は新たな技術を活用して、データ中継を行う体制の構築が期待されています。

後継機と未来の展望

JAXAは、こだまの機能を継承するために、次世代のデータ中継衛星を2機体制で開発したい意向を持っています。これには、従来の通信方式に加え、光通信の技術も検討されています。この新たな衛星群が、より豊富なデータ通信を実現することが期待されています。

こだまの運用は、日本の宇宙開発における多くの実績と技術革新に寄与し、未来のミッションにも大きな影響を与えるでしょう。

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