たすき

襷：歴史、文化、そして現代の用途

古来より日本の文化に深く根付く「襷（たすき）」は、単なる布や紐以上の意味を持っています。本稿では、その歴史、文化的意義、多様な用途について詳細に解説します。

古代の襷：神聖な装身具

現代では実用的なアイテムとして認識されている襷ですが、起源は神聖な儀式に用いられる装飾品でした。群馬県で発掘された古代の埴輪には、巫女が襷を着用した姿が描かれています。これは、神事における穢れを払う、いわば魔除けの役割を果たしていたと考えられています。

材料も多様で、日蔭蔓や木綿、蒲などの植物性素材から、勾玉や管玉を用いた豪華な「玉襷」まで存在しました。「玉襷」は、高貴な素材を用いた襷を指すだけでなく、玉を使った襷全般を指す言葉としても用いられています。平安時代には、神社の神事において木綿襷が用いられ、神聖な儀式に欠かせない装身具として重宝されました。

中世以降の襷：実用性と伝統の融合

室町時代以降、襷は神事や祭礼の装身具としての役割に加え、実用的な側面も持ち始めます。安土桃山時代の絵画には、田植えをする女性が襷を着用している様子が描かれており、田植えという神聖な行事をより厳かに執り行うための装束として用いられていたと考えられています。

現代でも、御田植祭など豊穣を祈願する神事において、参加者が襷を着用する習慣は残っています。襷の掛け方にも種類があり、背面または前面で交差させる方法と、片方の肩から腰に斜めに垂らす方法があります。前者を「綾襷」と呼びます。

室町時代以降、庶民の服装が筒袖から袂のある和服へと変化する過程で、襷は袖をたくし上げるための実用品として広く普及していったと考えられます。しかし、12世紀の『信貴山縁起絵巻』には、既に職人などが襷を着用した姿が描かれており、その普及過程はさらに遡る可能性も示唆されています。

江戸時代以降：日常の必需品へ

江戸時代に入ると、襷は町人や職人など、身分や年齢を問わず広く用いられるようになりました。日常生活に欠かせないアイテムへと変貌を遂げ、和服が中心であった昭和初期まで、その需要は衰えることはありませんでした。

しかし、洋服が主流となった現代では、日常的な必需品ではなくなりましたが、和服を着用する場面や伝統的な行事などにおいては、依然として活用されています。

襷の多様な用途

舞台芸術

歌舞伎では、「仁王襷」や「撥ね襷」と呼ばれる派手な襷が、荒事の役者によって力強さを表現するために用いられています。

神事

現代の神社でも、神職が神事を執り行う際に木綿襷が用いられます。

職業

明治・大正時代には、竹襷が料理人などの職人に用いられていました。

目印・宣伝

本来の用途以外に、目印や宣伝として用いられることもあります。白襷隊や赤襷はその代表例です。駅伝競走のバトン、選挙運動のたすき、ミスコンテストのサッシュなども襷の一種と言えるでしょう。また、レコードジャケットの帯も「襷」と呼ばれることがあります。

襷にまつわる言葉と文化

「襷掛け」「襷反り」「襷星」など、襷に関連する言葉も数多く存在します。また、備前焼の技法「火襷」や、伝統的な文様である「襷文」「鳥襷」「三重襷」なども、襷が日本の文化に深く根付いていることを示しています。

結論

襷は、神聖な儀式に用いられる装身具から始まり、実用的なアイテムへと変遷を遂げ、現代でも様々な場面で活用されている、日本の文化を象徴する存在です。その歴史と多様な用途を知ることで、改めて日本の伝統文化の豊かさを感じることができます。

もう一度検索