にしゃんた

スリランカに生まれ、現在は日本を拠点に多岐にわたる活動を展開するにしゃんた氏は、タレント、社会学者、講演家、落語家といった様々な顔を持っています。本名はジャヤシンハ・アーラッチラーゲー・トシタ・デーワップリヤ・ニシャンタ。自身の名「にしゃんた」は、かつてシンハラ語で「静夜」を意味すると考えていましたが、後に「夜明け」という意味だと知ったという興味深いエピソードを明かしています。

日本との最初の接点は、1987年の高校生時代の初来日。ボーイスカウトの一員として大津市にホームステイした経験が、日本留学の強い動機となりました。父が家を担保に工面した7万円と片道切符を手に再来日し、「日本で幸せになろう」と決意。当初は京阪京津線で三条のYMCAに通いながら、雄琴温泉で布団敷きのアルバイトなどで生計を立てました。非漢字文化圏出身としては異例の速さで日本語を習得し、来日わずか1年で日本語能力試験一級に合格しています。

学業においては、経済学や経営学への関心に加え、武道にも深く傾倒し、文武両道の日々を送りました。立命館大学経営学部では新聞奨学生として学び、同学年に800人以上いた中で学部総代として卒業。外国人初の読売新聞奨学生でもありました。卒業式では和服姿で壇上に上がり、宙返りを披露して会場を沸かせるなど、早くからその類まれなタレント性を発揮しています。また、大学在学中には、外国人による日本語弁論大会で次々と優勝し、「弁論大会荒らし」の異名を取りました。空手道にも励み、荒賀道場で指導を受け、全日本空手道連盟公認四段と指導員の資格を取得。月謝は出世払いを約束していたといいます。

大学卒業後、研究者としての道を歩み始め、名城大学で商学修士、龍谷大学で経済学修士号を取得。2003年には龍谷大学から博士（経済学）の学位を授与されました。龍谷大学では中村尚司、鶴見良行、田中宏、スリランカ・コロンボ大学のW.D.ラクシュマンといった錚々たる教授陣に師事。南アジア研究の第一人者である中村尚司氏を指導教授に選んだ背景には、17歳で母国を離れたためにスリランカについて知らないことが多いという自覚があったからです。

大学院在学中には、在日外国人向け多言語携帯ポータルサイト運営を目指し、仲間と共に株式会社グローバルコンテンツを立ち上げ、初代代表取締役に就任するという起業家としての顔も見せました。博士号取得後は大学教員となり、山口県立大学准教授を経て、2010年から羽衣国際大学で准教授、後に教授として教鞭を執っています。「国際経済論」「アジア経済」などを担当し、本来スリランカへ持ち帰るはずだった経済学を日本の次世代に伝えています。

大学教員の道を選んだ背景には、二つの大きな個人的経験がありました。一つは、ラグビー中の怪我による誤診で治療が遅れ、足に後遺症が残ったこと。これにより、身体を使う仕事が難しくなりました。もう一つは、大学卒業時の国際機関への就職活動で、国籍条項を理由に断られたことです。このため、大学院進学は、好きになった日本に留まるための苦渋の選択でもありました。にしゃんた氏は、自身の経験を通して、日本社会にはまだ多様性の受容において改善の余地があるとしつつも、外国出身者でも夢を実現できる素晴らしい国であることも証明している、という見解を示しています。また、学生時代の入国管理局の厳しさを、今となっては親代わりだったとも振り返っています。

プライベートでは、39歳で日本人と結婚。当初、妻の両親からは肌の色や国籍、宗教・長男であることに対する考え方から反対されましたが、後に許され、仏前でささやかな結婚式を挙げました。結婚を許された際に妻の母から渡された手紙は、今でも大切なお守りだといいます。

大学教員の傍ら、テレビ、ラジオ、執筆、そして特に講演活動に精力的に取り組んでいます。ダイバーシティ、生涯学習、まちづくり、男女共同参画、人権など、幅広い分野で年間100回以上の講演を行っています。難しいテーマも、親日国スリランカでの前半生と、日本の都会・地方での実体験を交え、親しみやすい京言葉や関西弁を織り交ぜたユーモアたっぷりの語り口で伝えます。巧みな話術と持ち前の愛嬌で聴衆の心を掴み、講演後には多くの人がファンになると評されています。献血ルーム一日所長を務めるなど、社会活動にも熱心です。

自身のライフワークとして「民際交流」「共生社会づくり」「日本再発見」を掲げ、活動を展開しています。2019年には、参議院議員選挙に大阪府選挙区から出馬。日本の国政選挙史上初めて、褐色肌の候補者として注目を集めましたが、惜しくも当選には至りませんでした。その選挙戦の様子は、ドキュメンタリー番組としても制作されています。

自身を「ダイバーシティ・スピーカー」と呼び、多様性の意義や包摂（インクルージョン）の必要性を説いています。生涯をかけて多様性を訴える原動力となっているのは、多様性が軽視された結果引き起こされた母国のスリランカ内戦における、多くの学友を失った辛い経験です。自身の哲学を示す大切な言葉として、「予期せぬ素敵な発見・出会い」を意味するセレンディピティを挙げています。

芸能活動も行っており、2008年には映画『地球のヘソ』で主演俳優デビュー。同年には落語家としても高座に上がっています。テレビ番組での共演をきっかけに桂春蝶氏に落語を教わり、練習を重ねました。2009年の社会人落語日本一決定戦では、全国362名の中から準優勝に輝き、大会審査委員長の桂三枝氏（現・桂文枝）から「あのマクラにはかてまへんな」と絶賛されました。この活躍は全国的なメディア露出の大きな契機となり、上方落語にとどまらず、三遊亭好楽氏からも指導を受けるなど、落語を通じた自己表現にも本格的に力を入れています。講演に落語を組み合わせたり、「スタンドアップ落語」といった新しいスタイルにも挑戦しています。

また、「共笑（ともえ）」という造語を提唱しています。これは、既存の「共生」という言葉に対し、より深い理想形を示す概念です。単に共に存在するだけでなく、互いが心から共に笑い合える関係こそが重要であり、そこにこそ真の平和や持続可能な発展が生まれると説きます。

幼少期に牛車に乗って象を数えることを日課にしていたエピソードや、教科書やテレビドラマ『おしん』を通して日本を知ったこと、そしてサンフランシスコ講和会議でのジャヤワルダナ大統領の演説が来日の決め手の一つとなったことなど、日本との強い縁を感じさせるエピソードも多く持っています。

多分野で活動するにしゃんた氏は、日本社会における多様性の受容と共生社会の実現に向け、自身の経験と持ち前の明るさ、巧みな話術を活かして、日々メッセージを発信し続けています。

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学歴

1993年3月：立命館大学経営学部卒業
1995年3月：名城大学大学院商学研究科修士課程修了
1996年3月：龍谷大学大学院経済学研究科修士課程修了
2001年3月：龍谷大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得満期退学
2003年3月：博士（経済学）取得

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主な著書

『文藝春秋オピニオン2016年の論点100』共著
『ブッダと歩く神秘の国 スリランカ』
『日本で知った『幸せ』の値段〜無一文の留学生が、大学准教授になるまで〜』
『留学生が愛した国・日本』
『日本的経営は海を越えられたか!?』
他多数

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主なメディア出演

テレビ: クローズアップ現代、視点・論点（NHK）、世界一受けたい授業（日本テレビ）、日立 世界・ふしぎ発見!（TBS）、Mr.サンデー（フジテレビ・関西テレビ）、おはよう朝日です（朝日放送）、京都!ちゃちゃちゃっ（KBS京都・関西テレビ☆京都チャンネル）など
ラジオ: テリー伊藤のフライデースクープ そこまで言うか!（ニッポン放送）、高田文夫のラジオビバリー昼ズ（ニッポン放送）、ラジオ深夜便（NHKラジオ第1）など

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受賞歴

日本語能力検定試験1級（1989年12月）
外国人による日本語弁論大会 最優秀賞（複数回）
京都市自治100周年記念『京都元気大賞』最優秀賞（1998年12月）
新世紀かがやき交流賞（多文化共生センターきょうととして）（2001年6月）
国際化推進特別感謝状（京都市）（2004年10月）
社会人落語初代日本一決定戦準優勝（2009年8月）

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社会における活動

初代京都府名誉友好大使
多文化共生センターきょうと代表
多民族共生人権教育センター理事
献血ルーム一日所長
京都府消防応援団 団員
* 他多数

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