ミョウガ

ミョウガ（茗荷）

ミョウガ（学名: Zingiber mioga）は、ショウガ科ショウガ属に分類される多年草です。日本原産で、独特の香りと風味が特徴の香味野菜として古くから親しまれています。食用として栽培されているのは日本のみとされ、日本料理には欠かせない食材の一つです。

名称の由来

ミョウガの古名は「めが」とされ、「芽香（めが）」や「妹香（めのか）」が転じたとする説があります。また、「みょうが」という名前は、漢語の「蘘荷（にゃうが）」の影響を受けたとする説が有力です。

さらに、仏教説話に由来する俗説もあります。釈迦の弟子の周利槃特は物忘れがひどく、自分の名前すら覚えられなかったため、釈迦が彼の背中に「槃特」と書いた旗を背負わせました。しかし、そのことさえも忘れてしまった周利槃特の墓から生えた草を、名（みょう）を荷うことから「茗荷」と名付けたという話です。

英語では、和名そのままに「Myoga」と呼ばれるほか、「Japanese Ginger」とも呼ばれます。

特徴

ミョウガは、日本を含む東アジアが原産で、各地に自生しています。日本では野菜として栽培され、食用とするのは日本だけです。奈良県の正倉院文書にも記述が見られるなど、その歴史は古いとされています。草丈は40〜100cmほどで、葉は細長い楕円形をしています。ショウガに似ていますが、地上部の茎のように見える部分は偽茎です。

花は淡黄色で、株元の地面近くに蕾をつけ、一日でしぼんでしまいます。まれに夏から秋にかけて実を結ぶこともあります。食用とするのは主に花穂（花みょうが）で、若芽を軟白栽培した「みょうがたけ」も食用にされます。雌雄同株ですが、5倍体のため受精しても親と同じ染色体数になることはまれで、繁殖は主に地下[[茎]]による栄養繁殖で行われます。

栽培

ミョウガは、日当たりの強い場所での栽培には向いていません。畑の隅や樹木の陰など、日照時間が短い場所で育てると良いでしょう。多年草のため、一度植え付けると毎年収穫できますが、3〜4年ごとに植え替えることで生育が良くなります。連作障害は出にくいとされています。

「夏ミョウガ」（早生種）は春に植え付けて夏に収穫し、「秋ミョウガ」（晩生種）は春に植え付けて初秋から中秋に収穫します。植え付けは根株によって行い、根が横に張って芽が出ているものを使用します。植え付ける場所には、あらかじめ堆肥を施しておきましょう。株分けで増やす場合は、春に芽が出る前に根を掘り起こし、3芽ずつくらいに切り分けます。植え付け後、約2〜3週間で芽が出て、2ヶ月後には草丈が20cmほどになります。その後、追肥を行い、花茎が出たら早めに収穫します。冬には地上部が枯れますが、春になれば再び芽を出します。

江戸時代には、現在の新宿区牛込地域がミョウガの生産地として知られ、「牛込の茗荷は勝れて大きく美味」と謳われていました。

品種

ミョウガには、蕾の発生時期によって「夏ミョウガ」と「秋ミョウガ」があります。各地で土着の在来種が栽培されており、「陣田早生」、「諏訪1号」、「諏訪2号」などが知られています。

主な生産地

ミョウガの花穂は、高知県が最大の産地で、ビニールハウスによる周年栽培が行われています。その他、秋田県、奈良県などが主な産地です。みょうがたけは、宮城県で軟白栽培されています。

食材としてのミョウガ

ミョウガは、日本料理に欠かせない香味野菜です。食用とするのは、固く締まった蕾の部分で、独特の香りと爽やかな風味が特徴です。薬味として、また酢漬けや汁の実など、様々な料理に利用されます。

主な旬は、夏に出回る小型の「夏ミョウガ」が6〜8月、秋に出回る大きめの「秋ミョウガ」が8〜10月です。花穂がふっくらとしてツヤがあり、先端から花蕾が出ていないものが良品とされます。花が咲いたものは、料理のあしらい（飾り）として利用されます。

香辛野菜

通常「花みょうが」と呼ばれるものは、花穂の内部に開花前の蕾が3〜12個程度含まれています。若芽を軟白栽培した「みょうがたけ」は、汁物や酢の物などにして食べられます。地面から出たばかりの花穂は「みょうがの子」と呼ばれます。

独特の香りとほのかな辛味が好まれ、麺類や冷奴の薬味などとして利用されるほか、天ぷらや酢の物、味噌汁の具、刺身のつま、酢漬けなどにも使われます。農家では、薬味として庭や屋敷林の木陰に植えられていることも多いです。アクがあるので、調理する際は切ってから水にさらしますが、長時間さらすと香りが損なわれるため注意が必要です。

奈良県の吉野地方では、ミョウガの新芽や葉を「たこな」と呼び、葉で鯖寿司を包んだ「たこな寿司」が作られます。一部地域では、ミョウガの葉を使った菓子も作られています。

可食部100gあたりの熱量は約12kcalと低カロリーで、特に目立った栄養素はありませんが、マンガンがわずかに多く含まれています。また、食物繊維も豊富です。独特の香り成分はα-ピネンという成分で、紅色の成分はアントシアニンの一種です。α-ピネンには、頭をスッキリさせたり、食欲増進、血液の循環をよくする効果があると言われています。

収穫したミョウガは、ラップなどで包んで乾燥を防ぎ、冷蔵保存すれば1週間ほど日持ちします。

俗信

俗に「ミョウガを食べると物忘れがひどくなる」と言われますが、これはミョウガを食べることによる記憶への悪影響に学術的な根拠はなく、栄養学的にもそのような成分は含まれていません。むしろ、ミョウガの香り成分には集中力を増す効果があることが明らかになっています。この俗信は、釈迦の弟子の周梨槃特の故事と、生姜（ショウガ）とミョウガの発音が似ていることから広まったと考えられています。

薬用

ミョウガには、消化促進や利尿の効果があると言われています。一般的には薬味として利用されますが、根茎をすりおろした汁を湿布材として凍傷の患部に貼ったり、煮汁をしもやけ治療に用いたりする民間療法もあります。また、茎や葉を乾燥させたものを入浴剤として疲労回復に役立てる方法も知られています。

文化

戦国武士の中には、戦で命が残る「冥加」にかけて、茗荷紋を好んで使用した者がいました。ミョウガの紋は家紋として広く普及しており、十大家紋の一つにも数えられています。

俳句では夏の季語として用いられ、素麺の薬味などとして詠まれます。

上方[[落語]]には、ミョウガの名の由来を題材にした「八五郎坊主」という話があります。

また、「仕様（生姜）がなければ茗荷がある」という言葉遊びもあります。


ミョウガは、その独特の香りと風味で日本の食文化を彩るだけでなく、様々な文化的側面も持つ魅力的な植物です。

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