やまじ風

やまじ（山風）とは

「やまじ」とは、愛媛県東部の四国中央市一帯や新居浜市、西条市で観測される、南からの強風のことです。春や秋に多く発生し、日本三大局地風の一つとして知られています。

名称について

近年では「やまじ風」という表現が用いられることもありますが、本来は「山風」と書いて「やまじ」と読むのが正しいとされています。古くから地元では「やまじが吹く」という言い方が一般的でした。気象台の調査報告書などで「やまじ風」と表記されるようになったため、この呼び方も広まっています。

発生のメカニズム

やまじは、低気圧が日本海を通過する際に、四国山地に南から吹き付ける強風が、石鎚山系と剣山系の間の鞍部である法皇山脈に収束し、その北側の急斜面を一気に吹き降りることで発生します。年間を通して発生しますが、特に春に多く見られます。

気温への影響

やまじが吹く際には、必ずフェーン現象が伴うため、時間帯に関係なく気温が上昇します。天気予報では、東予地方の気温予想に新居浜市の気温が用いられますが、やまじ発生時には四国中央市の気温は新居浜市の気温よりも5～8℃も高くなることがあります。例えば、2007年3月24日には、新居浜市や西条市、今治市が12℃台だったのに対し、四国中央市では20.5℃を記録しました。

発生しやすい状況

温帯低気圧の中心が東シナ海・朝鮮半島・日本海などに位置する時に発生しやすくなります。特に、台風の中心が四国や九州の西側を通過したり、日本海を通過するような場合には、やまじを併発し、大きな被害をもたらすことがあります。

また、やまじは大雨を伴うこともあり、石鎚山成就社や四国中央市・富郷地区では、特に大きな降水量が観測されることがあります。

予報と警戒

近年では、気象庁や日本気象協会がホームページで、また四国中央市もホームページや広報無線、防災メールなどでやまじに対する警戒を呼びかけるようになりました。暴風警報が発令された際には、大きな被害が発生する恐れがあります。

発生の予兆

やまじが発生する前には、山鳴りや、南から生暖かい風が吹き始めるなどの兆候が見られます。また、豊受山にやまじの吹き分け雲が現れ、その雲が徐々に豊受山を覆っていく様子も確認できます。

被害の状況

建物への被害

やまじによる主な被害としては、看板の飛散や落下、プレハブ小屋の転倒、瓦や屋根の破損や飛散、ブロック塀の倒壊などが挙げられます。また、鉄筋コンクリートの家屋でも、倒れてきた電柱が直撃するなどの被害が発生することがあります。

交通機関への影響

予讃線では、伊予寒川駅付近が最もやまじの影響を受けやすいため、構内に風速計が設置されています。この風速計が瞬間風速25m/sを超えると、伊予三島駅（または川之江駅）と新居浜駅の間で運転見合わせとなります。さらに風が強くなると、代替バスの運行も見合わせとなります。松山自動車道も風速30m/s程度で通行止めとなります。一般道でも、横転の危険性があるトラックなどが運転を見合わせ、物流が滞ることがあります。

農産物への被害

やまじは、水稲の倒伏や柑橘類などの果物の落果、ビニールハウスの損壊など、農産物にも大きな被害をもたらします。

被害への対策

特に被害の大きい旧土居町から旧伊予三島市の西部（寒川・豊岡地区）にかけての民家では、古くは屋根に重し石を載せたり、漆喰で瓦を固めたりするなどの対策がとられていました。近年では、コンクリート造の建物が多くなっています。

水稲は強風で傷みやすいため、この地域では、稲を避けてサトイモなどの根菜類の栽培が盛んに行われています。この地域で収穫されるサトイモは煮崩れしにくく、「いもだき」やおでんに適しています。

神事との関わり

豊受山にある風穴神社では、風穴からやまじが吹き出しているという言い伝えがあります。毎年7月下旬（旧暦6月13日頃）と9月13日頃には、風穴に365個（うるう年は366個）の団子を投げ入れて風の神を慰め、やまじを鎮める風鎮祭が行われます。

過去の記録的なやまじ

過去には、以下のような記録的なやまじが発生しています。

1945年9月：枕崎台風と併発し、家屋が多数倒壊
1951年10月：ルース台風と併発し、家屋が多数倒壊
1987年4月21日：最大瞬間風速41.6m/sを記録し、家屋や農業施設に大きな被害
1991年：台風19号と併発し、旧伊予三島市の翠波高原で最大瞬間風速73.2m/s（非公式）を観測。送電線鉄塔が倒壊
1993年6月2日：電柱が倒壊、トラックが横転。死亡事故が発生
2007年5月：四国中央市や新居浜市で農業被害や電柱倒壊などの被害
2016年4月16日～17日：最大瞬間風速36.7m/sを観測。鉄道が運転見合わせ、高速道路が通行止め。臨海工業団地で砂害が発生

関連情報

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