アイマラ

アイマラ族：アンデス文明を彩る人々

アイマラ族は、南アメリカ大陸のボリビア、ペルー、チリにまたがるアンデス山脈の高地地域に居住する先住民族です。チチカカ湖周辺を主な生息地とし、その人口はおよそ300万人と推定されています。独自の言語であるアイマラ語を話す彼らは、豊かな歴史と文化を紡いできた民族として知られています。

謎に包まれた起源

アイマラ族の起源については、未だに多くの謎が残されています。紀元前後から12世紀頃にかけて栄えたティワナク遺跡の建設者であったとする説や、12世紀頃にティワナク社会が崩壊した後、チリやペルー南部の海岸地域から北上してきたとする説など、複数の仮説が存在します。

ミトコンドリアDNA分析からは、現在のアイマラ族とチリ北部のサン・ペドロ・デ・アタカマから発見されたミイラのDNAが類似しているという結果が出ています。一方で、ティワナク遺跡出土の人骨のDNAはアマゾンの先住民に近縁であるという分析結果もあり、これらの結果はサンプル数の少なさから、確証を得たものではありません。さらに、言語学的な分析からは、リマ東方の山間部がアイマラ語族発祥の地であるという説も提唱されています。

アイマラ諸王国の興亡

歴史記録から、アイマラ族がチチカカ湖沿岸に確実に現れたのは13世紀頃以降です。この地域はかつてウルコスーユと呼ばれており、この時代にはルパカ、パカヘ、コリャなど複数のアイマラ王国が割拠していました。

ルパカ王国は、ペルー領に、パカヘ王国はボリビア領に勢力を伸ばし、在来のウルあるいはプキーナ語族の人々を支配下に置いたと考えられています。コリャ王国の出自については、ウル・プキーナ語族系統とする説もあります。しかし、これらの記述はスペイン人征服者による記録に基づいており、必ずしも正確なものではない可能性も考慮する必要があります。

アイマラ諸王国は、現在のペルー南部の河谷やチリ領の一部にも勢力を及ぼし、アルティプラーノ高地では栽培が困難なトウモロコシやコカ、木材などの資源を確保していました。コチャバンバにも領地を持っていた可能性も示唆されています。

インカ帝国とアイマラ族

インカ帝国が台頭した際には、チチカカ湖周辺には複数のアイマラ王国が存在していました。インカ帝国はこれらの王国を征服しましたが、アイマラ族は一定の権利を保持していたと考えられています。ケチュア語にアイマラ語からの借用語が多いことは、両者の歴史的関係を示す証拠の一つです。

スペイン征服とその後

スペインによる征服後、アイマラ族は1781年にトゥパク・カタリを指導者として反乱を起こしました（トゥパク・アマルー2世の反乱）。しかし、反乱は鎮圧され、トゥパク・カタリは処刑されました。この反乱は、後のトゥパク・カタリ運動の原点となっています。

現代のアイマラ族

現代のアイマラ族は、国境を越えた帰属意識は比較的薄い傾向にあります。しかし、「国境なきアイマラ」運動など、国境を超えてアイマラとしてのアイデンティティを共有しようとする動きも出てきています。この運動はボリビア国内政治と深く関わり、今後の動向が注目されます。

ボリビアにおいて、アイマラ族は政府所在地であるアルティプラーノ高地を中心に居住しており、近年、政治的な発言力を増しています。しかし、労組などの支持母体に基づく政治集団の力は分散しつつあり、抗議行動においても意見の対立が見られるようになってきています。それでも、2000年のラパス市包囲や、2003年から2005年のボリビアガス紛争など、アイマラ族は社会・政治的な影響力を持ち続けています。

アイマラ族やケチュア族の名字であるママニやキスペは、現在でも多く見られます。都市部ではケチュア族やヨーロッパ系住民との混血が進んでいるものの、これらの名字はアイマラ族の出自を示す指標となっています。かつては、差別を避けるためにヨーロッパ風の名字に変更する人もいました。

伝統的なアイマラ人の宗教観は、自然物への精霊信仰が根強く、山や木、岩などに神が宿ると考えられていました。トゥヌパとパチャママが主要な神として信仰され、パチャママは現在も広く信仰されています。

アンデス地方のフォルクローレ音楽で用いられるサンポーニャ（アイマラ語でシク）は、アイマラ族の起源を持つと考えられています。

2006年、エボ・モラレス（アイマラ族出身）がボリビア大統領に就任したことは、アイマラ族の政治的進出を示す象徴的な出来事となりました。

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