アイリッシュ・フルート

アイリッシュフルート：アイルランドの伝統音楽を彩る木製の笛

アイリッシュフルートは、アイルランドの伝統音楽において中心的な役割を担う木製のフルートです。20世紀後半からこの名称が定着しましたが、アイルランドでは18世紀以降にヨーロッパから伝わった楽器であり、「ジャーマンフルート」や単に「フルート」、「コンサートフルート」と呼ばれることも一般的です。

その歴史は古く、フランスで発明された円錐形ボアの単純な木製フルートから、近代的な全音階を奏でるキー付きのフルートまで、様々な種類が存在しました。アイルランド、スコットランド、ブルターニュなどの民俗音楽に適応した改良型も登場しています。伝統的な演奏家は、主にキーが一つ、もしくはキー無しのシンプルな木製フルートを使用します。

アイルランド全土で演奏されますが、特に中西部地域（ロスコモン、リートリム、スライゴ、ファーマナ南部、ゴールウェイ東部、クレア、リムリック西部）がアイリッシュフルートの中心地として知られています。

アイリッシュフルートの物理的特性

伝統的なアイリッシュフルートは、孔のみ、またはキーが一つだけのシンプルな横笛です。連続して音孔を塞ぐことで全音階（長調）を奏でます。古典派時代のフルートや現代の金属製フルートの一部は、金属製のキーと追加の音孔により半音階も演奏可能です。

シンプルな木製フルートは、その素材、独特のアンブシュア、直接指で穴を塞ぐ演奏方法から、金属製フルートとは明らかに異なる音色を持っています。D調が最も一般的ですが、E♭、B♭、C調などの他の調性でも演奏されます。Dフルートは非移調楽器で、運指表のCの指でコンサートピッチのCが鳴ります。Dフルートという名称は、最も基本的な6孔のフルートが最低音がDで、クロスフィンガリングなしにDの音階を演奏できることに由来します。一方、E♭、B♭、Cフルートは移調楽器です。

フルートは6つの主孔を持ちます。Dフルートを例に、塞いだ指孔をX、開いた指孔をOとすると、全ての孔を塞いだ状態（XXX-XXX）はDの音となります。各音孔を開閉することで、E、F♯、G、A、B、C♯、そしてオクターブ上のDと、ニ長調の音階を奏でることができます。

木製フルートのボアは、頭部は円筒形、胴部は円錐形をしています。ボアは頭部で最大となり、足部に向かって細くなります。これは、音孔の位置に関わらずフルートの長さを短くする効果があります。

現代のベーム式キーシステムフルートは一般的にC調ですが、これはローCに到達するためにキーが追加されたためです。しかし、金属製のベーム式フルートでも、主要な6つの指穴を全て塞ぐと（XXX-XXX）D音が得られます。単純システムの木製D管フルートは、コンサートC管ベーム式フルートの音高をより忠実に反映しています。テオバルト・ベームは、半音階演奏を容易にするためフルートを再設計し、円筒形ボア（頭部は放物線状ボア）と理想的な位置と大きさの音孔を持つベーム式フルートを生み出しました。

歴史的展開

アイリッシュフルートはアイルランド固有の楽器ではありません。単純なシステムの円錐形ボアフルートは、19世紀中頃にベーム式フルートが登場する以前から演奏されていました。多くの場合、木製（コーカス、グラナディラ、ローズウッド、コクタンなど）で作られました。

19世紀後半には、ロンドンのRudall & Rose社とBoosey & Co.社の2社が、大孔径フルートの主要な製造業者でした。Boosey & Co.社は、ロバート・シドニー・プラッテン考案のプラッテンフルートを製造しました。Rudall & Rose社は、より暗く純粋な音色で知られ、様々なスタイルのフルートを製造していました。多くのフルートは、C♯とCの演奏を可能にするフットジョイントを持っていました。現代のメーカーの中には、19世紀のフルートの音高と音色を再現するため、キーの代わりに2つの孔を持つ長いフットジョイントを採用するものもあります。

単純なシステムのフルートは、当初はコンサート音楽家向けでしたが、アマチュア奏者によって受け継がれ、伝統音楽の演奏にも使われるようになりました。ベルファストのフルート製作者サミュエル・コリン・ハミルトンは、19世紀にアイルランドに広まった軍楽隊が、フルートの普及に貢献したと考えています。また、19世紀半ばからのアイルランド経済の好転も、楽器を入手できる人の増加に繋がりました。

現代の変種と製作者

現代では、様々な伝統音楽スタイルのために、様々な材質（木、デルリン、PVC、竹など）のアイリッシュフルートが作られています。キー付きのものやキー無しのものなど、種類も様々です。多くの現代のフルートは、A=440の平均律で調律されています。現代の製作者は古い設計を模倣しつつ、現代の基準を満たす楽器を作っています。

代表的な現代の製作者には、Eamonn Cotter、Martin Doyle、Hammy Hamilton、Terry McGeeなどがいます。

演奏技術

アイリッシュフルートの現代的な演奏技術は、ティンホイッスルの技術と多くの共通点があります。カット、ストライク、ロールなどの装飾音を使用して音楽を彩ります。代表的な装飾音には、カット（素早く指を上げ下げする）、ストライク（開いた孔を指で叩いて上げる）、ロール（カットとストライクの組み合わせ）、クラン（イリアンパイプスの伝統から借用した装飾音）などがあります。

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