アウグスト・マンス

サー・アウグスト・フリードリヒ・マンス（Sir August Friedrich Manns, 1825-1907）は、プロイセン（現ポーランド領）に生まれ、主にイングランドで活躍した著名な指揮者です。イングランドでの活動が長かったため、英語読みのオーガスト・マンズとしても知られています。彼はロンドンの水晶宮を拠点に、約半世紀にわたり英国の音楽界に多大な影響を与えました。

1825年3月12日、マンスはシュトルツェンベルク（Stolzenberg）という村で、10人兄弟の5番目として誕生しました。父はガラス吹き工でしたが、マンス家は音楽一家でした。幼い頃から家庭での合奏を通じてフルートの腕を磨き、10歳で一時父の工房に入ったものの、音楽への情熱は衰えませんでした。12歳で叔父の学校に送られ、フルートに加えクラリネットやヴァイオリンの演奏も学びました。15歳からはエルビングの音楽家ウルバンに師事し、3年間にわたりオーケストラの実践的な知識や、必要に応じた楽器の持ち替え技術を習得。ウルバンからは和声学や作曲も特別に指導され、町の音楽隊ではヴァイオリンとクラリネットの主要パートを担いました。

兵役が近づくと、マンスは従軍を避けるためダンツィヒの歩兵音楽隊に志願し、クラリネット奏者として入隊しました。この時期、歌劇場や演奏会でもヴァイオリン奏者として活動し、才能を認められます。1848年にはベルリンでヨーゼフ・グングル率いるオーケストラに第1ヴァイオリン奏者として参加。翌年にはクロル歌劇場で指揮者とヴァイオリン独奏者を兼務しましたが、1851年の歌劇場焼失により職を失います。数週間後、アルブレヒト・フォン・ローン大佐の招きで軍楽隊指揮者となり、隊員の入れ替えやベートーヴェン作品などのクラシック音楽の編曲、弦楽隊の創設など、楽団の改革を進めましたが、些細な理由で職を辞することになりました。

同じ1854年、ロンドンの水晶宮で軍楽隊を結成したばかりのヘンリー・シャレーンに招かれ、クラリネット奏者兼副指揮者として契約を結びイングランドへ渡ります。しかし、マンスが作曲した楽曲をシャレーンが自作と偽ったことから両者の間に確執が生じ、マンスは解雇されてしまいます。このため、彼はしばらくイングランドの田舎でヴァイオリン教師をしたり、エディンバラの歌劇場管弦楽団で演奏したりして生計を立てるという苦労を経験しました。

転機が訪れたのは1855年です。アムステルダムでの夏季演奏会を指揮した後、ロンドンに戻ったマンスは、水晶宮の運営を任されていたジョージ・グローヴの招きを受け、解任されたシャレーンの後任として水晶宮の指揮者となりました。ミュージカル・ワールド紙も彼の就任を歓迎しました。これ以降、マンスのキャリアは水晶宮と分かちがたく結びつきます。彼は当初約34名からなる常任楽団（主に吹奏楽団員と特別に雇った数人の弦楽器奏者）を、グローヴの後押しのもと順次増員し、本格的なフルオーケストラへと発展させました。水晶宮にはこの楽団のために新しいコンサートルームも建設されました。マンスとグローヴは協力し、土曜日の午後に安価な料金でクラシック音楽を演奏するコンサートシリーズを企画・実行し、これが水晶宮の主要な催しとなっていきます。1855年から1901年まで、約42年間にわたりこの活動を続け、推定で12,000回以上の演奏会を開催したとされています。

マンスの最も重要な功績の一つは、その広範なレパートリーと紹介した作曲家の数です。彼の指揮した300名以上の作曲家の中には、ドイツ・オーストリア系（104名）が最も多く、次いでイギリスの作曲家（82名）が続きました。彼はシューマンやシューベルトといった大陸の作曲家の作品をロンドンで初めて紹介しただけでなく、英国の若手作曲家たちの庇護者としても知られています。特に、1862年4月にはアーサー・サリヴァンの付随音楽『テンペスト』を初演し、サリヴァンの名を世に知らしめました。サリヴァンは後に「私が梯子の一番下の段に昇るためにあなたが差し出してくれた救いの手に対し、私がどれほどの恩義を感じきれずにいることか」と感謝の念を綴っています。チャールズ・ヴィリアーズ・スタンフォード、ヒューバート・パリー、ヘイミッシュ・マッカン、エドワード・エルガー、エドワード・ジャーマンといった、その後の英国楽壇を担う作曲家たちの初期作品も、マンスによって積極的に紹介されました。さらに、ブラームス（1863年）、ラフ（1870年）、ドヴォルザーク（1879年）など、同時代の大陸の重要な作曲家たちも、彼の水晶宮での演奏会を通じて初めてイングランド国内で紹介されました。1888年には、水晶宮でヘンデルのオラトリオ『エジプトのイスラエル人』の録音が行われ、これはクラシック音楽の歴史において現存する最古の録音の一つとされています。

水晶宮での活動に加え、マンスは外部からの指揮依頼も多く引き受けました。特に、3年ごとに水晶宮で開催されるヘンデル音楽祭では、1883年に急遽病気になった創始者マイケル・コスタの代役としてタクトを振ったのを皮切りに、1900年まで毎回指揮者を務めました。彼は当初、その独特な指揮スタイルから合唱指揮には不向きと考えられていましたが、音楽祭での成功はそれを覆しました。また、グラスゴーの合唱組合のオーケストラ演奏会でも13シーズン連続で指揮し、ドルリー・レーンのシアター・ロイヤルでのプロムナード・コンサートや、シェフィールド（1896-1899）、カーディフ（1896）の音楽祭でも指揮台に上がりました。

1890年代以降、ロンドンの音楽環境が変化し、他の場所でもオーケストラ演奏が聴けるようになったことで、水晶宮での演奏会の相対的な重要性は次第に低下していきました。マンスは1900-1901年シーズンまで指揮を続け、1901年4月24日、水晶宮での活動に終止符を打ち引退しました。

私生活では、マンスは3度結婚しています。最初の妻とは1850年か1851年に死別。2番目の妻サラ・アンとの間に一人娘をもうけましたが、サラ・アンも1893年に亡くなりました。1897年には3番目の妻キャサリン・エミリー・ウィルヘルミナと結婚し、彼女に先立たれてこの世を去りました。

長年のイングランドでの音楽活動と貢献が認められ、1894年にはイギリス国籍を取得。1903年にはナイトの称号を授与され、「サー」の称号を得ました。そして、82歳の誕生日を迎えたわずか数日後の1907年3月1日、ロンドンのウェスト・ノーウッドで死去しました。彼の功績を称えるかのように、その墓所はウェスト・ノーウッド墓地にあります。サー・アウグスト・フリードリヒ・マンスは、英国音楽史において、特に水晶宮を舞台とした大衆へのクラシック音楽の普及、そして新旧・国内外の幅広い作品紹介という点で、忘れられない存在として記憶されています。

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