アドハム・ハーン

アドハム・ハーンの生涯

アドハム・ハーン（生年不詳 - 1562年5月16日）は、北インドにおけるムガル帝国の著名な政治家および武将であり、特に皇帝アクバルの乳母であるマーハム・アナガの息子として知られています。アドハム・ハーンの父については諸説あり、帝国の高官や皇帝フマーユーンの可能性も指摘されています。

政権における影響力

摂政バイラム・ハーンの失脚後、マーハム・アナガはアクバルの政権内で絶大な権力を持つようになり、それに伴いアドハム・ハーンの権力も日増しに増加しました。彼はアクバルの乳兄弟であったため、政権での発言力を高め、重要なポジションを占めることになりました。

1560年、アドハム・ハーンはピール・ムハンマド・ハーンと共にマールワーに遠征し、1561年にはこの地域を占領して太守の地位を得ました。しかし、彼はマールワーの支配者であるバーズ・バハードゥルを取り逃がし、さらにその場で詩人ループマティーを自死に追いやるという悲劇を招いてしまいました。また、アドハム・ハーンは君主に戦利品を全て送るという帝国の慣習を破るという重大な失態を犯し、アクバルとの関係は悪化の一途をたどります。

権力闘争と暗殺計画

アドハム・ハーンは、フマーユーン以来の重臣アトガ・ハーンと対立関係にありました。アトガ・ハーンはマーハム・アナガ一派に対抗する存在であり、彼の妻ジージー・アナガもアクバルの乳母であったため、アクバルから「養父」と呼ばれていました。その一方で、アドハム・ハーンはアトガ・ハーンが宰相であることに不満を持ち、彼を排除しようと画策します。アトガ・ハーンを陥れるため、ムヌイム・ハーンに唆される形で暗殺計画が進められるのでした。

1562年5月16日、アドハム・ハーンは多くの部下を伴い、アーグラ城の公謁殿にいたアトガ・ハーンを短剣で襲撃しました。この時、アクバルは寝殿で眠っていましたが、騒音に驚いて目覚め、公謁殿に向かいます。アドハム・ハーンはその場を後にしようとしたところ、アクバルと対面してしまいます。アクバルは激怒し、「よくも私の養父を殺したな」と言い放ち、アドハム・ハーンを打ち据えました。彼は捉えられ、逆さに投げ捨てられて命を落とします。

この事件の後、アクバルはマーハム・アナガに事の経緯を丁寧に説明しましたが、彼女は悲しみに暮れ、結果として40日後に亡くなってしまいます。アドハム・ハーンの生涯は、権力闘争と悲劇的な結果が結びついたものであり、ムガル帝国の複雑な政治状況を反映しています。

参考文献

• - アンドレ・クロー 著、杉村裕史 訳『ムガル帝国の興亡』法政大学出版局、2001年。
• - 小谷汪之『世界歴史大系 南アジア史2―中世・近世―』山川出版社、2007年。
• - フランシス・ロビンソン 著、月森左知 訳『ムガル皇帝歴代誌 インド、イラン、中央アジアのイスラーム諸王国の興亡（1206年 - 1925年）』創元社、2009年。

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