アニ (トルコ)

アニ：歴史と文化が交錯する古代都市

アニ（Ani）は、現在のトルコ共和国カルス県に位置する古代都市で、アルメニア人によって中世に建設されました。シルクロードの重要な拠点として栄え、多様な文化が交錯した歴史を持つこの地は、アルメニア人にとって文化的、宗教的、国家的な遺産として深く認識されています。2016年には、「アニの考古遺跡」としてユネスコの世界遺産に登録されました。

地理と要塞

アニは、アフリアン川の渓谷とBostanlar谷、Tzaghkotzadzor谷に挟まれた三角形の場所に位置し、天然の要塞としての役割を果たしていました。アフリアン川はアラス川の支流であり、トルコとアルメニアの自然的国境を形成しています。標高約1340mの火山性凝灰岩の丘の上に築かれており、近隣の中心都市カルスからは西へ42kmの距離にあります。

歴史：繁栄と衰退

バグラトゥニ朝の首都として

アニの歴史は、5世紀にアルメニアの年代史家によって初めて言及されました。当時、この地は強固な要塞として、カムサラカン家の所有地とされていました。9世紀初頭には、アニを含むシラク地方がバグラトゥニ家の領土となり、804年にはアショト4世がアッバース朝からアルメニア公の称号を受けました。バグラトゥニ朝の最初の首都はバガランでしたが、その後シラカヴァンを経て、961年にアショト3世によってアニに遷都されました。

スムバト2世の時代には、アニの街は大きく発展し、聖堂や多くの教会が建設されました。992年には、ドヴィンがイスラム教徒に破壊されたことを機に、アルメニアのカトリコス（総主教）座がアニに移され、政治と宗教の両面で中心地となりました。10世紀には、アニの人口は5万から10万人に達したと推定されています。

最盛期

アニの勢力は、ガギク1世の治世（989年-1020年）にピークを迎えました。かつては交易路から外れていましたが、都市の規模と富によって重要な交易拠点となり、「40の門がある都市」「千と一の教会がある都」として知られました。東ローマ帝国、ペルシア帝国、アラブ、南ロシア、中央アジアなど、多様な地域との交易が盛んに行われました。

この時代には、アルメニア教会建築が花開き、アニ主教座大聖堂や聖グリゴル教会などの傑作が建設されました。特にアニのトゥルダトという建築家は、卓越した才能を発揮しました。

衰退期

ガギク1世の死後、バグラトゥニ朝は弱体化し、東ローマ帝国との関係も変化しました。1064年には、セルジューク朝軍によってアニが占領され、住民が虐殺されました。その後、アニはシャッダード朝に売却されましたが、住民は常にグルジア王国に支援を求め、1124年から1209年の間に5回もグルジアに占領されています。

1199年には、グルジア王国のタマラ女王がアニを支配下に置き、ザカリアン家が統治権を得ました。アニは一時的に繁栄を取り戻しましたが、1236年にはモンゴル人によって略奪され、住民の多くが虐殺されました。

14世紀には、アニはジャライル朝や黒羊朝などのトルコ系王朝によって支配され、1319年の地震によって荒廃しました。1441年にはアルメニアのカトリコスの座がエレバンに移り、1735年には最後の僧侶が去り、アニは完全に放棄されました。

近代

1878年、アニを含むカルス地方はロシア帝国に帰属し、1892年には初の考古学的発掘調査が行われました。ニコライ・マルによる発掘調査では、街の大部分が専門的に調査され、多くの建築物が発掘されました。第一次世界大戦末期には、オスマン帝国軍がアニに接近したため、発掘品が避難されましたが、その後、残されたものは略奪や破壊に遭いました。

1921年にカルス条約が締結され、アニはトルコ共和国の領土となりました。トルコ政府は当初、アニの遺構を「一掃せよ」と命令しましたが、実際には一部の破壊に留まりました。

現代

1989年から2005年にかけて、トルコの研究者によって発掘作業が再開されましたが、遺跡はダイナマイトによる採掘や略奪行為によって深刻なダメージを受けました。2011年には、ワールド・モニュメント財団がトルコ政府と協力して聖堂や教会の保護作業を開始しました。

文化的な重要性

アニは、アルメニア人にとって文化的、宗教的、国家的な遺産として非常に重要な場所です。その名前は、アルメニア語の女性名としても人気があり、歌や詩にも登場します。また、アニの栄光は、アルメニアの人々にとって誇りであり、彼らのアイデンティティを形成する上で重要な役割を果たしています。

アニの建築物

アニには、バグラトゥニ朝時代に建設された多くの教会や聖堂が残っており、その建築様式はアルメニア建築の黄金期を代表するものです。

アニ大聖堂

アニ大聖堂は、神の聖母教会としても知られ、989年から1001年にかけて建設されました。アニのトゥルダトによって設計され、三方後陣型のドーム・バシリカ様式を持ちます。ドームは1319年の地震で崩壊しましたが、内部には尖ったアーチやクラスタ化された柱など、当時としては先進的な構造が見られます。

ティグラン・ホネンツ聖グリゴル教会

1215年に完成したティグラン・ホネンツ聖グリゴル教会は、アニでもっとも保存状態の良い建築物です。裕福なアルメニア人商人ティグラン・ホネンツが発注し、ドーム型ホールと呼ばれる種類の教会です。内装には、グルジアの芸術家によって描かれた大規模なフレスコ画が残っています。

聖プリキッチ（ハラスカル）教会

聖プリキッチ（ハラスカル）教会は、1035年以後に完成したとされる円形に近い19角形の教会です。聖十字架の断片物を保管するために建設され、特徴的なデザインを有していました。しかし、1955年の嵐で東側半分が崩壊しました。

その他の教会

他にも、Abughamrentsの聖グリゴル教会、聖グリゴルのガギク王教会、聖使徒教会などの教会がアニには存在していました。これらの教会は、いずれもアニの建築技術や芸術性を物語る貴重な遺構です。

マヌーチヒルのモスク

マヌーチヒルのモスクは、1072年以後にアニを支配したシャッダード朝のマヌーチヒルに由来するモスクです。ミナレットがほぼ無傷で残っており、北面にはアラビア語のクーフィー体で「バスマラ」と刻まれています。

要塞と城壁

アニの街は、南端部の丘と二重の城壁によって守られていました。特に北側の城壁は堅固で、獅子門、カルス門、ドヴィン門の3つの門がありました。これらの要塞と城壁は、アニが戦略的に重要な場所であったことを示しています。

世界遺産

2016年、「アニの考古遺跡」としてユネスコの世界遺産に登録されたことで、アニは国際的に重要な文化遺産として認められました。この登録は、アニの歴史的、文化的な価値を再認識させ、将来にわたってその保全に努めるための第一歩となりました。

アニは、シルクロードの歴史、アルメニアの文化、中世の建築技術が交錯する重要な場所です。その遺跡は、かつての繁栄と衰退の歴史を物語り、今もなお多くの人々に感動とインスピレーションを与え続けています。

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