アニメーションの歴史

アニメーションは、人類が古くから夢見てきた「動く絵」を実現する技術です。その歴史は、旧石器時代にまで遡ると言われる動きの表現への試みから始まり、17世紀の幻灯機の発明、そして19世紀の様々な視覚玩具を経て、映画技術の登場とともに大きく発展しました。

動く絵への初期のアプローチ

旧石器時代の洞窟壁画には、動物が複数の脚を重ねて描かれている例が見られます。これは、動きの異なる瞬間を表現しようとした試みであると考えられています。また、イランで発見された5200年前の陶器のボウルには、ヤギが木の上で飛び跳ねる様子が描かれています。これらはアニメーションの直接的な起源とは言い難いものの、静止画に動きを捉えようとする人間の試みの初期の例と言えるでしょう。

19世紀以前には、1秒未満の瞬間を捉えて動きを表現するという概念が十分に発達していませんでした。そのため、これらの初期の画像は、現代のアニメーションとは異なる解釈をされることもあります。

幻灯機

17世紀に発明された幻灯機は、光源とレンズを使ってガラス板に描かれた絵をスクリーンに投影する装置です。初期の幻灯機は、静止画を投影するものでしたが、18世紀には、手動で動くガラス片を追加することで、簡単なアニメーションが可能になりました。風車の回転や人形の行進、目や口などの一部を動かすといった表現が楽しまれました。

1770年頃には、煙を投影して幽霊のイメージを映し出す技術も開発され、ファンタスマゴリーというショーで人気を博しました。また、日本では、19世紀初頭に幻灯機が「写し絵」という芸能に発展し、複雑なストーリーを表現するのに用いられました。

1830年代から1840年代にかけては、溶解ビューと呼ばれる技術が用いられ、風景の変化や画像の変容を表現しました。さらに、彩色されたガラスディスクを回転させることで、幾何学模様を投影するクロマートロープなども開発されました。

フィルム以前のアニメーション

幻灯機以外にも、動画の登場以前に、アニメーション画像を表現するための様々な装置が開発されました。これらは、光学玩具として楽しまれ、現代のアニメーションの基本原理を学ぶ上で重要な役割を果たしました。

先駆的形態

1821年、回転するホイールのスポークの錯視に関する記事が発表されました。これは、「視覚の持続性」という概念の基礎となるものです。網膜に映った像は、原因がなくなっても一定時間残るというこの現象は、アニメーションが動きとして認識されるための重要な要素です。

ソーマトロープ（1825年）

ソーマトロープは、円盤の両面に描かれた絵が回転することで、1つの合成された絵に見えるという視覚玩具です。これは、2相アニメーションの例として捉えることもできます。この玩具は、「視覚の残像」の例としてもよく紹介されました。

フェナキストスコープ（1832年）

フェナキストスコープは、円盤状の紙に描かれた連続した絵をスリットを通して見ることで、絵が動いて見えるという視覚玩具です。これは、連続画像を使った最初のアニメーション装置であり、現代のアニメーションの原理を確立したものです。この発明は、1832年にジョゼフ・プラトーとサイモン・フォン・シュタンファーによってほぼ同時に行われました。

ゾエトロープ（1866年）

ゾエトロープは、円筒の内側に描かれた連続した絵を、スリットを通して見ることで、絵が動いて見えるという視覚玩具です。ウィリアム・リンカーンによって開発された、画像の入れ替えが可能なストリップを用いるタイプが普及しました。

フリップブック（1868年）

フリップブックは、連続した絵が描かれたページをめくることで、絵が動いて見えるという視覚玩具です。これは、アニメーションの原理を最も簡単に実現したもので、現代でも広く楽しまれています。

プラキシノスコープ（1877年）

プラキシノスコープは、円筒の中心に配置された鏡によって、内壁に描かれた連続した絵を反射させ、動いているように見せる視覚玩具です。ゾエトロープよりも鮮明な画像で見えるように改良されたものです。

初期のフィルムアニメーション

テアトル・オプティーク

シャルル・エミール・レイノーは、プラキシノスコープを改良したテアトル・オプティークを開発しました。これは、フィルム状の帯に描かれた絵を投影する装置で、後の映画フィルムの原型とも言えます。1892年にパリで公開された「光のパントマイム」は、テアトル・オプティークを使った最初のアニメーションショーでした。この装置は、アニメーションの直接的な祖先として捉えられることもあります。

キネトスコープとシネマトグラフ

1890年代には、トーマス・エジソンがキネトスコープを、ルミエール兄弟がシネマトグラフを開発し、映画技術が誕生しました。これらの技術は、アニメーションの発展にも大きな影響を与えました。しかし、映画術でアニメーションが製作されるまでには、10年前後を要しました。

アーサー・メルボルン・クーパー

アーサー・メルボルン・クーパーによる「Matches an Appeal」（1899年）は、ストップモーションアニメーションの初期の例として知られています。しかし、制作年については異説もあり、第一次世界大戦頃であるという見方も有力です。

ジェームズ・スチュアート・ブラックトン

ジェームズ・スチュアート・ブラックトンによる「The Enchanted Drawing」（1900年）は、アニメーションシーケンスを含む最初の映画として知られています。彼は、ストップトリックの効果を用いたアニメーションを制作しました。また、1906年には、黒板に描いた絵をストップモーションで撮影した「Humorous Phases of Funny Faces」を発表しました。

伝統的アニメーション

エミール・コール

フランスのエミール・コールは、1908年に「ファンタスマゴリー」というアニメーション映画を制作しました。これは、手描きアニメーションの初期の例であり、アニメーション制作の基礎となる手法を用いています。この映画では、棒人間が様々なものに変形していく様子が描かれています。

ウィンザー・マッケイ

ウィンザー・マッケイは、手描きアニメーションの技術を大きく発展させました。彼の代表作である「リトル・ニモ」（1911年）、「恐竜ガーティ」（1914年）、「ルシタニア号の沈没」（1918年）は、手描きアニメーションの可能性を示しました。特に「恐竜ガーティ」は、実写とアニメーションを組み合わせた画期的な作品でした。

セルアニメーション

1910年代には、アニメーション短編映画の制作が独自の産業となり、セルアニメーションの技術が開発されました。これは、透明なセルロイドシート上に絵を描き、それを背景の上に重ねて撮影するという手法で、ジョン・ランドルフ・ブレイとアール・ハードが特許を取得しました。これにより、アニメーション制作の効率が大幅に向上しました。

サイレント時代のアニメーション

サイレント映画時代には、様々なアニメーション作品が制作されました。アルバート・E・スミスとジェームズ・スチュアート・ブラックトンによる「The Humpty Dumpty Circus」（1897年）は、ストップモーションアニメーションの初期の例です。また、エミール・コールの「ファンタスマゴリー」（1908年）は、手描きアニメーションの初期の傑作として知られています。ロシアのラディスラフ・スタレヴィッチは、死んだ昆虫を使ったストップモーションアニメーションを制作しました。さらに、ウィンザー・マッケイは、「恐竜ガーティ」など、手描きアニメーションの表現力を高めるための実験的な作品を制作しました。

ウォルトディズニーとフライシャー兄弟

1920年代には、ウォルト・ディズニーとフライシャー兄弟がアニメーション界で大きな存在感を示しました。ディズニーは、1928年に「蒸気船ウィリー」でミッキーマウスをデビューさせ、トーキーアニメーションの可能性を示しました。また、フライシャー兄弟は、1920年代から1930年代にかけて、ロトスコープなどの技術を駆使し、「ベティ・ブープ」や「ポパイ」などの人気キャラクターを生み出しました。1937年、ディズニーは世界初の長編アニメーション映画「白雪姫」を公開し、アニメーション映画の新たな時代を切り開きました。

テレビの時代

カラーテレビの登場は、アニメーションの世界に大きな影響を与えました。ハンナ・バーベラは、1950年代から1960年代にかけて、「ハックルベリー・ハウンド・ショー」や「原始家族フリントストーン」などの人気テレビアニメを制作しました。テレビの普及により、劇場で上映されていたアニメーションへの関心は一時的に低下しましたが、テレビアニメは新たな視聴者層を獲得し、アニメーションはより身近な存在となりました。

アート・アニメーション

アート・アニメーションは、芸術性や実験性を追求したアニメーション作品のジャンルです。東欧では、人形アニメーションや切り絵アニメーションが発達し、ヘルミーナ・ティールロヴァー、イジー・トルンカ、カレル・ゼマンなどの巨匠が数々の名作を生み出しました。また、ロシアでは、ロマン・カチャーノフやユーリ・ノルシュテインなどの監督が、独特のスタイルを持つアニメーションを制作しました。

アニメーション技術

アニメーション制作には、様々な技術が用いられてきました。伝統的な手描きアニメーションに加えて、ストップモーションアニメーション、セルアニメーション、そして現代ではCGIアニメーションなどがあります。

CGIアニメーション

CGIアニメーションは、コンピュータグラフィックスを用いて制作されるアニメーションです。ピクサーの「トイ・ストーリー」（1995年）は、最初の完全にコンピュータアニメーションで制作された長編映画として知られています。CGIアニメーションは、現実的な映像表現を可能にするとともに、制作の効率化にも貢献しました。

マシニマ

マシニマは、リアルタイムの3Dコンピュータグラフィックスレンダリングエンジンを用いて制作されるアニメーションです。ビデオゲームを制作に用いることが多く、ファンが著作権で保護された素材を再利用するケースが目立ちます。

アニメーションの記念碑的作品

アジア

中国

中国のアニメーションは、1920年代から発展し始めました。代表作には、「西遊記鉄扇公主の巻」、「おたまじゃくしがお母さんを探す」、「大鬧天宫」などがあります。

インド

インドのアニメーションは、1970年代から本格的に発展しました。「Ramayana: The Legend of Prince Rama」や「Hanuman」などが有名です。

イラン

イランのアニメーションは、1970年代から発展し、ヌールディン・ザリンケルクなどのアニメーターが重要な役割を果たしました。

日本

日本のアニメーションは、1917年に始まったとされています。世界初の長編アニメーション映画「桃太郎の海鷲」（1943年）や、日本初のカラー長編アニメーション映画「白蛇伝」（1958年）などがあります。また、「鉄腕アトム」、「マジンガーZ」、「機動戦士ガンダム」など、多くの人気アニメシリーズが制作されています。

大韓民国

韓国のアニメーションは、1960年代から発展しました。代表作には、「少年勇者ギルドン」や「ロボットテコンV」などがあります。

マレーシア

マレーシアのアニメーションは、1970年代から発展しました。代表作には、「Hikayat Sang Kancil」や「Upin & Ipin」などがあります。

ヨーロッパ

イギリス

イギリスのアニメーションは、アーサー・メルボルン・クーパーの「Matches an Appeal」など、初期の作品が見られます。また、「動物農場」や「ウォーターシップダウンのうさぎたち」など、独特の作風を持つアニメーション作品が制作されています。

チェコ

チェコは、人形アニメーションの伝統が強く、イジー・トルンカなどの巨匠が数々の名作を生み出しました。代表作には、「Špalíček」や「Císařův Slavík」などがあります。

エストニア

エストニアのアニメーションは、1930年代から始まりました。Tallinnfilm内にアニメーション部門が設立され、多くの作品が制作されました。

フランス

フランスのアニメーションは、エミール・コールによって初期に確立されました。その後、多くのクリエイターが活躍し、独特のアニメーション文化を築きました。

ハンガリー

ハンガリーのアニメーションは、1930年代から発展しました。Gyula MacskássyやEdit Feketeなどのアニメーターが活躍し、長編アニメーション「János Vitéz」などの作品が制作されました。

イタリア

イタリアのアニメーションは、1940年代後半から本格的に始まりました。「La Rosa di Bagdad」や「Dynamite Brothers」などの初期の作品があります。

ロシア

ロシア（ソ連）のアニメーションは、1930年代から発展しました。ラディスラフ・スタレヴィッチによる人形アニメーションや、「雪の女王」、「霧につつまれたハリネズミ」などの名作があります。

アニメーションは、常に新しい技術や表現方法を取り入れながら、発展を続けてきました。その多様な歴史は、私たちの創造性や想像力を刺激し、これからもさらに進化していくことでしょう。

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