アブー・ヤアクーブ・ユースフ

アブー・ヤアクーブ・ユースフ（マリーン朝のスルターン）

アブー・ヤアクーブ・ユースフ（生年不詳 - 1307年）は、マリーン朝のスルターンとして1286年から1307年までモロッコを統治しました。父は先代スルターンであるアブー・ユースフ・ヤアクーブです。

生涯

アブー・ユースフ・ヤアクーブとアブー・ヤアクーブ・ユースフの親子二代の治世は、マリーン朝にとって最初の繁栄期とされています。この時代、イフリーキーヤのハフス朝はマリーン朝に臣従し、マリーン朝の海軍はキリスト教国の貿易路で数々の軍功を挙げました。これにより、北アフリカにおけるマリーン朝の権威は大いに高まり、国内を訪れる隊商や巡礼者の数も増加しました。

ユースフがスルターンに即位した当時、マリーン朝は臣従国であるザイヤーン朝の反抗や、宮廷内の権力闘争といった問題を抱えていました。父ヤアクーブの治世末期にはカスティーリャ王国との関係が改善され、1285年には両国の間に和平が締結されていました。ユースフは即位直後、モロッコ南部で発生した反乱の鎮圧とザイヤーン朝の攻撃に兵力を割かざるを得ず、イベリア半島での積極的な軍事活動は控えざるを得ませんでした。

1291年にカスティーリャ王サンチョ4世が和平協定を破棄したため、再びイベリア半島への出兵が行われましたが、目覚ましい成果を挙げることはできませんでした。そのため、イベリアでの軍事活動を一時停止し、ザイヤーン朝への攻撃を再開しました。ザイヤーン朝支配下の多くの都市がマリーン朝の占領下に入り、1299年にはザイヤーン朝の首都トレムセンを包囲するに至りました。

トレムセンは容易には陥落せず、攻めあぐねたユースフはトレムセン近郊にアル・マンスーラという急造の都市を建設しました。一方、宮廷内ではハージブ（侍従）のハリーファ・アクバルを始めとするユダヤ教徒の一族ラッカーサ家と、他の廷臣との間で激しい権力闘争が繰り広げられていました。ハリーファ・アクバルは宮廷内で絶大な権力を握るに至りましたが、他の廷臣の働きかけがあったのか、1302年にユースフはハリーファ・アクバルらラッカーサ家の人々の処刑と財産の没収を命じました。

1306年には、ナスル朝の君主ムハンマド3世によってセウタを占領されるという事態も発生しています。そして1307年、ユースフはトレムセン包囲中にアル・マンスーラの宮殿で暗殺されました。

アル・マンスーラの町

1299年から1307年までのトレムセン包囲の際、ユースフはトレムセンの南西4kmの地点にアル・マンスーラの町を建設しました。町の名前である「アル・マンスーラ」は「勝利者」を意味しますが、一般には「ティリィムサーン・アル・ジャディード（新トレムセン）」という名で呼ばれていました。

アル・マンスーラには宮殿、モスク、泉、隊商宿が建設され、ヨーロッパ諸国のフンドゥク（商館）も設けられました。アル・マンスーラは交易拠点として急速に発展し、物資が欠乏していたトレムセンとは対照的に、市場には商品が溢れていました。しかし、ユースフの死後、マリーン朝がトレムセンの包囲を解いて撤退すると、トレムセンの市民によってアル・マンスーラは破壊されました。その後、アブー・アルハサン・アリーの治世にトレムセンがマリーン朝の支配下に置かれた際にアル・マンスーラは修復されましたが、現在ではミナレットと城壁の一部が残るのみとなっています。

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