ザイヤーン朝

ザイヤーン朝（1236年 - 1550年）

ザイヤーン朝は、現在のアルジェリア北西部、トレムセンを中心に栄えたベルベル人のイスラム王朝です。アブドゥルワード朝とも呼ばれ、その支配領域はマグリブ地方の中部に及びました。

建国と初期の動向

ザイヤーン朝は、ベルベル系遊牧民であるザナータ族の傍流、ザイヤーン家を母体として成立しました。12世紀にムワッヒド朝が台頭すると、ザイヤーン家はこれに従属し、オラン地方に領地を与えられます。1236年、トレムセン総督であったヤグムラーサン・イブン・ザイヤーンがムワッヒド朝の衰退に乗じて独立を宣言し、スルタンを称して王朝を樹立しました。首都はアトラス山脈中の要衝、トレムセンに置かれました。

トレムセンは、地中海とサハラ砂漠、アルジェリアとモロッコを結ぶ交易路の要として古くから繁栄していました。しかし、建国初期の1242年には、イフリーキヤのハフス朝によって一時占領されます。その後、ザイヤーン朝はハフス朝との交渉を経てトレムセンを取り戻しました。また、ヤグムラーサンはモロッコ南東部のシジルマサを攻撃し、1264年にはこれを制圧。サハラ交易の中心地であるトレムセンとシジルマサを支配下に置くことで、王朝の経済基盤を強化しました。

強国の干渉とアブー・ハンムー2世の治世

13世紀末から14世紀にかけて、ザイヤーン朝はマリーン朝の圧迫を受けます。1299年と1307年には、トレムセンがマリーン朝による包囲を受け、市民は困窮を極めました。包囲中、マリーン朝はトレムセン近郊にアル・マンスーラという新都市を建設し、経済的な優位を示しました。包囲が解けた後、トレムセンの住民はアル・マンスーラを破壊しました。

14世紀初頭、マリーン朝の内紛に乗じてザイヤーン朝は一時的に勢力を回復し、ハフス朝の内政に干渉します。しかし、これがマリーン朝の介入を招き、1337年にはトレムセンが再びマリーン朝に占領されました。1348年にザイヤーン朝は独立を回復しますが、1352年には再びマリーン朝の支配下に入り、その状態は1359年まで続きました。

14世紀後半のアブー・ハンムー2世の治世下で、トレムセンは再び繁栄を取り戻します。しかし、マリーン朝の再攻撃やアラブ遊牧民の反乱など、不安定な状況が続きました。アブー・ハンムー2世は隣国ハフス朝の王位争いに介入し、政略結婚を行うなど外交手腕を発揮しました。この時代、歴史家イブン・ハルドゥーンがトレムセンに滞在し、宮廷と遊牧民の仲介役を務めました。この経験が、彼の代表作『歴史序説』の着想に繋がったとも言われています。

衰退と滅亡

アブー・ハンムー2世が子のタシュフィーン2世によって廃位された後、ザイヤーン朝は衰退期に入ります。マリーン朝、ハフス朝、そしてイベリア半島のキリスト教国であるアラゴン王国の影響下に置かれ、15世紀にはアラゴンの保護国となります。また、レコンキスタの進展により、イベリア半島から多くのムスリムやユダヤ教徒が流入し、社会の不安定要素が増大しました。

1492年のグラナダ陥落後、スペインの影響力が増大し、1509年にはオランがスペインに占領され、ザイヤーン朝はスペインの属国となります。1517年には、バルバロス・オルチ率いるバルバリア海賊の支配下に入り、さらにモロッコのサアド朝が侵入するなど、支配者がめまぐるしく交代しました。

1550年、アルジェを属国化したオスマン帝国の軍がサアド朝を駆逐し、トレムセンを占領。ザイヤーン朝は滅亡し、その領土はオスマン帝国のアルジェ州に併合されました。

ザイヤーン朝は、周辺の強国との関係や、アラブ遊牧民との対立、そして内部抗争など、多くの困難を抱えながらも、300年以上にわたって存続しました。その首都トレムセンは、サハラ交易の要衝として経済的に繁栄し、イスラーム文化の中心地として発展しました。

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